グローバル・ジャスティス 新たな正義論への招待
グローバル社会に生きているにもかかわらず、われわれは内戦や貧困など世界の悲惨な現実を直視できていない。西洋政治哲学を主流とし、日本の政治・法哲学の議論を独占してきた「正義論」は、グローバル化が深化するなかで、その限界が明らかになってきている。本書は、身近な問題から世界各地の問題まで様々なテーマから、国境を越えてグローバルな視点で「正義とは何か」を問い直し、「グローバル・ジャスティス」研究へと誘う。
1 なぜ,グローバル・ジャスティス研究「入門」なのか
2 正義の端緒
3 普遍から,地球へ
4 グローバル・ジャスティスの出発点
5 本書の構成
第Ⅰ部 世界認識/歴史認識
第1章 イスラームと正義(内藤正典)
――共約不可能性と共存の可能性
1 9.11は何をもたらしたのか?
2 ヨーロッパへの波及
3 オバマ大統領演説のインパクト
4 共約不可能性を了解すること
5 共約不可能性を前提にしての共存の模索
第2章 アメリカのグローバル・ジャスティスとイランのジャスティス(中西久枝)
――核開発問題をめぐって
1 イラン核問題の背景
2 9.11から対サッダーム戦争へ――中東の対イラン政策
3 イランのジャスティス――核交渉のレトリック
4 アメリカ・イスラエル・イラン関係――シリア問題におけるねじれの構図
5 ふたつのジャスティスの衝突と日本外交
第3章 Giving Voice to the Voiceless 声なき人たちに声を与える(林 香里)
――ケアの倫理から考えるメディア・ジャーナリズムの「正義」
1 ジャーナリズムの論じ方――正義論の入口
2 「言論・表現の自由」と日常感覚との落差
3 ケアのジャーナリズムへ
第4章 歴史としての朝鮮半島と日本(太田 修)
1 変化の視点から考える
2 韓国民主主義の展開
3 変わりゆく北朝鮮
4 歴史のなかの日本・南北関係
5 新たな関係を築くために
第5章 貧困は人権侵害なのか?(ピエール・サネ)
第Ⅱ部 正義の諸理論
第6章 グローバル・ジャスティスの可能性(伊藤恭彦)
――国境のむこうにいる人々への義務を考える
1 世界の貧困と格差
2 市場社会の正義
3 グローバル市場と正義
4 優先主義の基づく解決への道筋
5 グローバル・ジャスティスと連帯
第7章 シティズンシップをジェンダーの視点から考える(ルース・リスター)
――親密圏からグローバルへ
第8章 「義」とはなにか(錢 鷗)
――中国思想史を振り返って
1 適切・正しいであることのいくつかの次元
2 国家の不義を暴く墨子
3 義は,内なるものか,それとも外なるものか
4 忠の形,義によってつくられる
第9章 グローバルに正義を考える(岡野八代)
――日本軍「慰安婦」問題をケースにしながら
1 不正義の感覚からの始まり
2 西洋の伝統における正義論の始まり――被害者の沈黙
3 なぜ,「慰安婦」問題は正義の問題なのか――既知なるものの世界を超えて
4 グローバルな正義と修復的正義の新たな展開――拓かれる民主主義
終 章 グローバル・インジャスティス(内藤正典)
1 正義を論じるということ
2 正義は人間の手にあるのか
3 正義論における規範の退場
【コラム】
1 グローバリゼーションと食の権利(二村太郎)
2 スカーフ問題とは何か(菊池恵介)
3 ふたつの民衆法廷(柴田修子)
索 引