住民と創る地域包括ケアシステム 名張式自治とケアをつなぐ総合相談の展開
ローカルな実践知にこそ、地域包括ケアをデザインし、地域を変え・創るヒントがある
上野谷加代子氏(日本地域福祉学会副会長・同志社大学社会学部教授)
本書は、住民による「自治」と安心して暮らしていくための「ケア」を統合させる政策及び実践のあり方について、三重県名張市でのアクションリサーチから紡ぎ出された「ローカルな実践知」をまとめたものである。
住民とともに、自治とケアをつなぐ地域包括ケアシステムを構築していくためには、住民を機能として「活用する」のではなく、住民と「協働する」ことが重要であり、そのためには、地域の流儀に合った協働の「かたち」をそれぞれの地域で創り出していく必要がある。
小学校区ごとに「まちの保健室」と呼ばれる地域包括支援センターのブランチを設置し、住民と協働しながら地域包括ケアシステムの構築を進めてきた三重県名張市の実践知には、地域包括ケアをめぐる自治体政策、総合相談、地域と専門職の連携のあり方について、表面的な類似性を超えて他地域が参考にできるヒントが隠されているといえる。自治体職員及び地域包括ケアにかかわる実践者・研究者に有用な一冊。
[ここがポイント]
◎ 事例を豊富に掲載。
◎ 「自治」と「ケア」を一体的に展開させるなかで紡ぎ出された「ローカルな実践知」をまとめた内容。
1 本書が伝えたいこと
2 ローカルな実践知の意味
3 ローカルな実践知から新しいイノベーションを
4 本書の目的、構成と方法
5 本書の方法の特徴
第1章 地域包括ケアと総合相談の理論
1 地域包括ケアとは何か
2 「地域の力」と「専門職の力」
3 総合相談の内容と圏域
4 地域包括ケアのデザイン
5 先行研究の要約
第2章 自治とケアをつなぐ政策
1 名張市の地域内分権
2 名張市の地域福祉計画と地域包括ケアシステム
3 地域内分権と地域福祉・地域包括ケアの展開過程
第3章 身近な総合相談窓口の機能を「見える化」する
1 地域での地道な実践を「見える化」したい
2 事例検討会を通じてまちの保健室の機能を「見える化」する
3 まちの保健室の機能の柱——5つの機能
4 まちの保健室の実践評価と課題
5 アクションリサーチとしての研究事業の成果
第4章 住民・地域の視点からみたまちの保健室
1 地域づくり組織と地域福祉の展開
——すずらん台地区の取り組みから
2 波及する地域づくり組織の取り組み
3 民生委員の視点からみたまちの保健室
4 まちの保健室と基礎的コミュニティにおける小地域福祉活動
第5章 見守りケースからみたまちの保健室
1 見守りに関する先行研究のまとめ——理論的検討
2 見守りの全体像
3 見守り体制についての分析
4 まちの保健室における見守りの効果と課題の検証
第6章 実践事例から身近な総合相談窓口の機能を理解する
1 地域と一緒に支援する——まちの保健室の見守り事例
2 孤独と向き合いながら生きる——緩やかな見守りと関係づくり
第7章 地域包括ケアシステムを住民とともに創る
1 主体的で専門職を活用できる地域の力
2 「地域の力」と連携できる「専門職の力」
3 地域が主体性を発揮し、専門職が地域と連携できることを促すしくみ
4 ニワトリが先か卵が先か
あとがき
参考文献
索 引
コラム
1 地区保健福祉センターまちの保健室雑感
2 「ともに創る福祉」を目指して
3 地域包括ケア
4 「支援」という目には見えないものを見せていくこと
——行政職としてのかかわり
5 福祉の理想郷を求めて
——すずらん台を安住の地へ
6 まちの保健室に期待すること
7 つつじヶ丘・春日丘自治協議会とまちの保健室による地域とのかかわり
8 身近な場所 まちの保健室での健康づくりや介護予防
——住み慣れた地域で暮らし続けられるように
9 まちの保健室と一緒にすすめる権利擁護
10 適切な行政サービスに導いてくれるまちの保健室