生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスへ
いまや日本の生理用品の性能は世界最高水準にあるが、半世紀前に使い捨てナプキンが登場する以前は、欧米と比べ、かなり遅れていた。なぜ日本では長い間、生理用品が進化しなかったのか。そしてなぜ、短期間で進化を遂げることができたのか。また、日本ではタンポンの普及率が低いが、これにも理由がある。本書では、ナプキン以前の経血処置法と、その進化を阻んだタブー視の背景をたどり、戦後の生理用品発展の軌跡を追う。女性の社会進出を陰で支えた生理用品の日本独自の発展史を描く。
[ここがポイント] ◎ 小野清美『アンネ・ナプキンの社会史』(1992)以来取り上げられることのなかったテーマ ◎ 読みやすい文章、特に3章はビジネス書としても面白い ◎ 収載の論文「アンネ社の生理革命」は、リポジトリデータの高頻度ダウンロード文献
第1章 ナプキン以前の経血処置――植物から脱脂綿まで
太古は植物、貴族は絹
『婦人衛生雑誌』はなぜ月経を重視したのか?
禁止された自転車、ダンス、コーヒー、読書
医師が勧める衛生的処置
濃尾大震災と脱脂綿の普及
木下博士の「衛生帯」
働く女性たちの経血処置
優秀な母体〉と見なされたのは?
『女工哀史』に見る経血処置
タンポン式への偏見
高級月経帯「ビクトリヤ」
「大王」「女王」が競い合った月経帯
大正時代の経血処置の記憶
既製品タンポンに対する逆風
戦時下の経血処置
月経回数と生理用品の進化
第2章 月経タブーの歴史――各地に残る痕跡
世界各地に見られた月経タブー
宗教と月経タブー
月経はなぜ不浄視されるようになったのか
〈血の穢れ〉の起源
卑弥呼の「鬼道」と月経
『古事記』に見る月経観
〈血の穢れ〉の制度化
「血盆経」の影響力
戦後も続いた月経小屋
産小屋の経験――「お日様に遠慮せよ」
月経小屋の経験――それは女性のためなのか?
前近代の医学的月経観
月経と妊娠可能時期
不浄視が阻んだ生理用品の進化
第3章 使い捨てナプキンの登場――アンネ社の果した役割
黒いゴム引きパンツと月経帯
アメリカから来た生理用品――コーテックス
羞恥心を上回った快適さ
坂井夫妻と発明サービスセンター
水洗トイレを詰まらせた脱脂綿
ミツミ電機社長、森部一
渡PR課長の女子トイレ調査
女性社長に期待されたイメージ
「アンネ」に込められた思い
『素足の娘』の初潮観
「ナプキン」の由来
歓迎された「お嬢さん社長」
307人のモニターが協力
菓子箱のようなパッケージ
アンネナプキンとパンネットの完成
水洗が禁じられたナプキン
伝説のキャッチコピー――「40年間お待たせしました!」
実現されなかった広告戦略
1日目で9割販売
300万人目標キャンペーン
「アンネの日」と呼ばれる
月経観を変えたアンネの広告
タンポン使用率が低い理由
アンネ社の功績
先駆者の苦労
「のちにはみとれ」――ユニ・チャーム、高原慶一朗の挑戦
映画館を工場に
「私もしてます」――痔にナプキン
坂井泰子と高原慶一朗
スーパーマーケットに卸して大成功
ナプキンの技術を活かした使い捨ておむつ
ミツミ電機のアンネ社売却
生理用品の進化とアンネ社の終焉
泰子、森部、渡のその後
第4章 今日の生理用品――選択肢の広がりと新たな月経観
使い捨てナプキンと付加価値
逆戻り率0.2パーセントのナプキン
「メッシュシート」からの脱却
薄さ1ミリのナプキン
ナプキンの進化と女性スポーツ選手の活躍
布ナプキンの〈効用〉についての研究
子宮内膜症増加の原因
使い捨てナプキン〈有害説〉
メーカーによる環境対策
横瀬利枝子による使い捨てナプキン批判
小野千佐子による「プラスチックナプキン」批判
経血は「汚物」か否か
経血不潔視と月経不浄視の混同
「生理」は「月経」の代用語か
コマーシャルに対する規制
いきすぎたメーカー批判
布ナプキンの自然な広がり
使い捨てナプキンと「サステナビリティ」
レンタルナプキン
月経カップと月経吸引法
あとがき
引用・参考文献
生理用品関連年表
アンネ社広告資料
索 引