社会福祉の定義と価値の展開 万人の主権と多様性を活かし、格差最小の共生社会へ
福祉の定義化に挑み,価値を構造化する。そして,ルーツとフィールドを踏まえ,自己実現と生活世界の価値の立方体を提起する。
福祉の論理が、福祉政策と援助技術を中心に展開され、ノウハウの学問へと矮小化されつつある。しかし、自殺、うつ病、貧困、犯罪、虐待等の問題は、明らかに社会構造に起因する問題であり、サービス供給の調整で完結するものではない。こんにち、福祉の論理に求められているのは、独自の深い人間観(優生思想を根源的に批判できる人間観)に立脚し、広く文化・文明を問い、疎外された人と同じ目線に立って生きようとする《主権と人権をまもり高める福祉》の原理論の提起である。
1 社会福祉学の本質
2 価値の体系とは何か
3 幸福は魂の陶冶にあり,魂は世界全体の幸福を志向する
4 自由とは良心にのみ従うこと
5 社会福祉の二つの到達点
6 本書の構成
第Ⅰ部 社会福祉の定義と価値構造
第1章 福祉の公理,目的,目的価値,方法価値
1 福祉の基本公理
2 社会福祉の目的論
3 《弱さ》そのものに価値を見出す人間観
4 福祉的人間観と徳富蘇峰,香川豊彦の思想
5 精神の自主性という価値と全体主義
6 「監視・飼育社会」の変革する《自己の死後に向かってなされる公共奉仕》
7 利他と連帯への視点
8 共生を破壊するもの
――原発メルトダウンの暗喩とその克服の方向性
9 ブリコラージュと障老病死の意味の復活
第2章 自己実現するという価値観(価値観Ⅰ-Individuality)
1 自己実現とは何か
2 自己実現の価値観
第3章 生活世界の再生という価値観(価値観Ⅱ-Reciprocity)
1 社会構造の変化をどう捉えるか
2 生活世界の再生が目指すもの
第4章 個人の尊厳と基本的人権という価値(価値観Ⅲ-Universality)
1 個人の尊厳と多様性を活性化させる方向性
2 マイノリティをマジョリティに同化・包摂する民衆のパワー
3 攻撃性の止揚は周囲の人との葛藤関係の直視と受容から始まる
4 生かされている目的と向き合うことによるマイノリティとの共生
5 暮らしの共同性の衰退,生活世界の解体と「孤人化」
6 多文化共生の基本的な考え方
7 多文化共生の理念を「京都」から考える
8 自文化とともに異文化を尊重する
9 在日コリアン自身に取り込まれた偏見
10 在日コリアンと日本人住民との意識のズレ
11 ヒューマン・ベーシック・ニーズを取り戻していく過程
12 異質なものを活かしてつなぐ協働作業の仕掛けを
第5章 なぜ貧困を問うのか――野宿者への応答
1 競争至上主義の社会の犠牲の象徴
2 精神障碍のある人の多さ
3 生活の安定を前提とし,楽しみの一環としての働き支援
4 野宿者の実態とその脱出
5 野宿からの脱出――Q氏の事例
6 野宿からの脱出――Z氏の事例
7 ホームレスの人生の語り部としてのソーシャルワーカー
8 学生の野宿者に関するアンケートから
9 葛藤,弱さ,時間,含意を愉しむ社会像
10 人格,愛,正義を希求する人間像
11 悲哀,苦悩,挫折の仕事
12 貧困と差別にある人を視座の中央に
13 インクルージョンを担う学生たちの教育の指標
第6章 福祉の価値観の背景にあるエートス
1 人類的な「意味の解読コード」とソーシャルワーカーの思想
2 内なる罪や悪の覚知
3 迷い,疑い,批判を抱き,にもかかわらず信ずる
4 自己は諸関係の全体,エゴを客観視できる自己を持つ
5 偽善,英雄気分を怖れよう
6 「縁」という相関関係と,自分のものではない「はからい」を活かす
7 生命への愛を活性化し自己愛を超える
第7章 福祉の基本理念の定義
1 人権思想(thought of human rights)
2 生存権(right to live[life])
3 幸福追求権(right to the pursuit of happiness)
4 自 立(independence)
5 自 由(freedom : liberty)
6 愛他主義(altruism)
7 ノーマライゼーション(normlization)
8 敬老思想(thought of respect for the aged people)
9 社会的平等(social equality)
10 社会的正義(social justice)
11 社会的公平(social fairness)
第Ⅱ部 社会福祉の価値と思想の展開
第8章 社会福祉の対象論・関係論
1 被抑圧者と切り結んで生きる
2 可謬性の世界で悩み挫折し探索する人間像
3 榎本貴志雄の社会事業と思想
第9章 社会福祉における義と愛――ローザ・ルクセンブルクに学ぶ
1 ストラスブール大学の歌
2 ハイデッガーの貧困の定義
3 住谷とローザ・ルクセンブルク
4 ルクセンブルクの人格形成
5 ルクセンブルクの感性
6 ルクセンブルクの思想
7 自他の悲しみを経験する力
8 共生は説くものではない
9 義にうらづけられた愛という生きる目的
第10章 思想としての社会福祉
1 人間性への洞察と権力批判
2 抑圧者に対する抵抗としての人権
3 生活のトータリティを問う
4 小倉襄二の仕事
5 ヴァルネラビリティからの阿部志郎の発信
6 社会正義とは何か
7 右田紀久惠の福祉哲学
8 病いの意味と言説の資源
9 疎外の自覚と抵抗する主体形成
10 管理される障碍のある人と福祉労働者
11 多文化共生の社会とは
12 「被抑圧者の教育学」の新訳
13 孝橋正一の理論の再評価
14 社会福祉の閉鎖系化への批判
15 心を内壊させる現代社会の病理
16 福祉思想の真偽を試す《緩慢な戦時》
第11章 社会福祉のフィールドとルーツ
1 根源的弱さに向き合う福祉思想
2 生活世界の再生に関わる福祉思想
3 インクルージョンと湯浅,宮本,齋藤らの社会福祉理論
4 池田敬正の仕事
5 関家新助の社会福祉哲学
6 古川孝順の仕事
7 疎外された人と共に生きた福祉の先達と“臨床の知”
8 戦争的なるものと異類愛
9 宗教の意味と機能の再評価
おわりに――社会福祉独自の社会観,人間観,共生観
索 引