GDP2位の中国が抱えるジレンマとは何か 習近平政権と調和社会の行方
本書は、経済大国となり国際社会における存在感を強めた中国が、近年、その成長伸び率が低下し、農民の都市への流入、格差の拡大等、経済成長がもたらしたデメリットのみが残された社会に陥りつつある点に問題意識を持ち、企画されたものである。胡錦濤前政権から習近平政権に引き継がれた「調和社会」の理念に基づく生活保障制度改革を中心に分析し、今後の中国社会を展望した一冊。
[ここがポイント]
◎ 生活保障制度の観点から中国社会を分析。
◎ 官僚腐敗、二重戸籍といった現代中国の近代化において、最大の障害となっている問題を中心に考察。
第Ⅰ部 中国型成長モデルの功罪
第1章 遠のいた「調和社会」実現の夢
1 高邁な理想と残酷な現実
2 胡錦濤政権の残した遺産
3 習近平政権が引き継いだ重すぎる課題
第2章 労働者の命を引き換えにした高度経済成長
1 労働災害が多発する中国
2 絶対多数の労働者は労災保険未加入
3 労働災害に遭っても補償されない労働者たち
第3章 経済大国と貧困大国の狭間で──中国が抱えるジレンマ
1 史上最も貧しい世界2位の経済大国
2 貧困県で多発する不祥事
3 後回しにされる農村貧困者の救済
第Ⅱ部 国民を分断する二重戸籍
第4章 政府の強権によって引き裂かれた国民
1 戸籍制度が「諸悪の根源」
2 難航する戸籍制度改革
3 大都市の「防衛線」
第5章 二億人の出稼ぎ労働者の哀歌
1 先進地域を席巻する「民工荒」の嵐
2 低賃金に甘んじざるを得ない農民工
3 社会の最底辺で喘ぐ農民工
第Ⅲ部 「一人っ子政策」の緩和と高齢化
第6章 軌道修正を迫られる「一人っ子政策」
1 消えない人口爆発の恐怖
2 理不尽な社会扶養費の配分
3 一人っ子を失った人々
第7章 知られざる高齢化の実態
1 疑問だらけの「常識」
2 高齢者を取り巻く社会状況
3 高齢者の生活を守る社会保障の構築
第Ⅳ部 中国版「国民皆保険・皆年金」体制の現実
第8章 市場原理の浸透で揺れる社会保障
1 無残に侵食される農村医療保険基金
2 隆盛を極める都市部の家政業
3 福祉の分野に浸透する自由放任主義
第9章 8000万人の障害者──その権利擁護について
1 北京パラリンピックと中国人障害者の実態
2 中国のバリアフリーはまだ始まったばかり
3 障害者を取り巻く厳しい就労環境
第10章 真価が問われる国民皆医療保障制度
1 発展途上国初の「国民皆保険」体制構想
2 農村地域で繰り広げられる医療制度再建に向けた悪戦苦闘
3 新型農村合作医療制度は農民の医療費負担を軽減しているか
第11章 中国版「国民皆年金」体制の構築と行方
1 中国では今、なぜ「国民皆年金」体制なのか
2 都市部公的年金の現状
3 勝敗の鍵を握る農村年金の行方
第Ⅴ部 官僚腐敗と富の集中
第12章 「亡党」と「亡国」の究極の選択──制御不能な官僚腐敗
1 腐敗・汚職の温床と化した共産党政権
2 ほとんど効果がない防止対策
3 「亡党」か「亡国」か──究極の選択
第13章 社会政策の失敗──問われる政府の責任
1 迷走する個人所得税の制度改革
2 富裕層向けのリバース・モーゲージ
3 難航する固定資産税の導入
参考文献
索 引