人文地理学への招待
地理学とはどんな学問か。空間をデザインする建築学や都市計画学,地域・コミュニティや経済・産業の動態を分析する社会学・経済学の諸分野,地球環境の持続可能性を論じる環境学など,地理学と問題関心の重なり合う学問分野は数多く存在する。そうしたなかで地理学は,狭い井戸に入り込むことをあえて避け,環境を常に注視しながら,空間から地域への橋渡しを試みる。
地理学の研究は,地図・写真,統計・文書,フィールド観察・聞取りなど,実に多様な情報を動員して地域の襞を読み解こうとする,平坦ではないが刺激に溢れた営みである。そのプロセス,作法について,本書では,15人の地理学専門家が豊富な事例を通じてわかりやすく解説する。
地理を学ぶ大学生のみならず,関連領域から地理学に関心を寄せる一般読者にとっても,恰好の入門書になるだろう。
[ここがポイント]
◎ 好評を博した基礎テキスト『人文地理学』を全面リニューアル。
◎ 地理学で扱う様々なアプローチを網羅的に解説
◎ 授業回数を意識し、序章を含めて15章立てとしている。
序 章 地理学を学ぶために(竹中克行)
1 時間と空間
2 空間を読み解く作法
3 地理学の可能性
第Ⅰ部 地域への地理学のまなざし
第1章 都市のなりたち(遠城明雄)
1 都市はどのように生まれ,成長を遂げてきたのだろうか
2 都市は19世紀以降どのような変貌を遂げてきたのだろうか
3 都市は社会経済システムとどのような関係にあるのだろうか
4 都市はどこへ向かうのだろうか
第2章 変動する農村の社会(高橋 誠)
1 農村とはどのようなところか
2 農村変動はどのようにとらえられるか
3 日本の状況,そして政策の影響
第3章 景観をつくる人々(齊藤由香・竹中克行)
1 景観へのアプローチ
2 景観のなかに地域をみる
3 地域の共有像をよむ
4 土地と人の関係性に働きかける
第Ⅱ部 経済活動を空間的に読み解く
第4章 農業と食のネットワーク(林 琢也)
1 現代の農業と食の特性
2 食料供給体系をとらえる
3 生産者のネットワークを考える
4 農業と食を身近なものに
第5章 工業立地変動のダイナミズム(近藤章夫)
1 現代経済における工業地理
2 工業立地の変動と研究アプローチの深化
3 自動車産業にみる立地と集積
4 半導体産業の栄枯盛衰とグローバル競争
5 グローバル化時代の「ローカル」な工業地理学
第6章 流通システムと消費生活の基盤(土屋 純)
1 日本における流通システムの転換と地理学的研究の視点
2 20世紀における代表的な業態店とその流通システム
3 生活基盤としての流通システム
第Ⅲ部 地理学が映し出す想像力の世界
第7章 地政言説から政治を読む(山崎孝史)
1 言葉,政治,地理学
2 地政言説の構成と分析
3 地政言説としての大阪都構想
4 堺市長選挙と「場所の言説」
5 地政言説から政治を読む
第8章 観光空間を文化論的に理解する(神田孝治)
1 観光,空間,文化
2 観光空間の誕生と拡大
3 観光空間の魅力と他所イメージ
4 観光空間と権力
5 観光空間における対立と矛盾
6 観光空間の生産とその理解に向けて
第9章 地域文化について考える(大城直樹)
1 地域文化とは?
2 地域文化の発現形態
3 地域文化の構制
4 地域文化研究の課題
第Ⅳ部 過去と現在を繋ぐ地図
第10章 現実世界の歴史地理(山村亜希)
1 歴史地理学と過去の3つの世界
2 景観復原図の作成方法
3 景観復原研究の展開
4 文化財としての過去の景観
第11章 想像世界の歴史地理(上杉和央)
1 歴史地理学の「いま・ここ」
2 地図からみた世界観
3 地図史からみた近代
4 場所の想像力とメディア
5 「いま・ここ」からの歴史地理
第Ⅴ部 地理学と現実地域の接点
第12章 地理情報システムを使いこなす(谷 謙二)
1 地理空間情報社会
2 さまざまなWebGIS
3 スタンドアローンGISとデータ構造
4 GISのデータ
5 GISの空間分析機能
第13章 地理学の公共政策への応用(梶田 真)
1 地理学と公共政策
2 政府の重層構造と地理学
3 スケールの異なる公共政策の連携
4 行政領域の再編成と地理学
5 地理学と公共政策
第14章 環境問題への地理学のかかわり(伊藤達也)
1 環境問題とは何か
2 環境問題への人文地理学的アプローチ
3 水資源問題へのアプローチ
4 持続可能な社会をつくる
文献案内
あとがき
索 引