人物で見る日本の教育[第2版]
本書は、日本教育史を人物の歩みから読み直すことを目指している。教育は時代を映し出す鏡である。それぞれの時代ごとに向き合わねばならない課題があり、教育にはその解決が求められた。時代を担う人材の育成や、社会的矛盾の解決を目指す実践など、多様な目的の教育活動が展開されてきたが、その主体は人間であり、人間の歩みを描くことこそが教育の歩みを描くことだといえるだろう。
江戸時代の儒学者や国学者、幕末・明治期の私塾・近代的学校の創設者、近代的教育実践者、戦争、そして戦後と向き合った教育者たち……。本書が取り上げる人物の問いは、いまだ古びない。教育と向き合い続けた人間たちの生き様を描き出した入門書、大幅な改訂を行った待望の第2版である。
[ここがポイント]
◎ 人物を通じて教育の歴史をわかりやすく読み解くことができる
◎ 教育原理・日本教育史などの授業での採用も可能
第Ⅰ部 江戸時代
時代的背景
第1章 中江藤樹――近江聖人,江戸陽明学者の嚆矢
1 中江藤樹の足跡とその学問形成
2 陽明学と藤樹学
3 教育史の中の藤樹
第2章 伊藤仁斎――「日本的」儒学の一範型
1 仁斎学の形成と京都町衆の文化的・学問的環境
2 仁斎学の構造と特質——その朱子学説との対峙
3 教育史の中の仁斎と仁斎学
第3章 雨森芳洲――近世の異文化理解と朝鮮外交
1 雨森芳洲の儒学思想
2 対馬藩の藩儒として
3 異文化理解の理想と現実
第4章 荻生徂徠――儒教道徳の批判的再構成
1 “儒教道徳”への問題提起
2 古文辞学と「君子」の理想
3 「君子」の道徳・「小人」の風俗
4 経世論への展開
第5章 貝原益軒――「楽」を伝える養生論と養育論
1 生い立ち
2 藩士としての活動
3 学問への誘い
4 「楽」について
第6章 石田梅岩――「倹約」の伝道活動
1 開講に至るまで
2 儒者の立場から
3 「倹約」の思想
4 「聖人ヲヒキ受ル」
第7章 本居宣長――共感と寛容の教育思想
1 宣長の青春と古代への憧憬
2 「もののあはれ」論
3 鈴屋社の教育
第Ⅱ部 幕末・明治時代
時代的背景
第1章 緒方洪庵――新しい学問と教育
1 蘭学塾と緒方洪庵
2 適塾の教育
3 適塾の思想
第2章 吉田松陰――幽室における決死の教育
1 生い立ちから獄中まで
2 獄中から幽室まで
3 再入獄まで
4 刑死まで
第3章 福沢諭吉――日本における「近代教育思想」の一範型
1 福沢諭吉の生涯とその時代
2 福沢諭吉の教育思想
3 福沢からの視線
第4章 新島 襄――私立する精神と良心教育
1 憂鬱なる青春
2 脱国とアメリカ生活
3 新島襄の教育思想
第5章 西村茂樹――新たな国民道徳をめざして
1 西村茂樹の思想的立場
2 西村における「道」の意味
3 「聖学校」の構想
4 西村と「教育勅語」
第6章 森 有礼――啓蒙官僚の近代教育構想
1 幕末青年の留学
2 特異な異文化体験
3 啓蒙官僚の思想
4 初代文部大臣として
第7章 津田梅子――異文化に触れた女子留学生
1 異国への出発
2 帰国後のとまどい
3 再び留学
4 女子教育への夢
第8章 嘉納治五郎――師範教育の使命と精神
1 文武両道の青春
2 「柔道」の発見と学習院への奉職
3 師範教育への献身
4 嘉納の挑戦と挫折
第9章 元田永孚――「国教」の提唱者
1 熊本での研鑽
2 宮内省出仕
3 国教論の提唱と「教育勅語」
4 元田とその時代
第10章 井上哲次郎――世界道徳と国民道徳の狭間で
1 「哲学者」井上の理想と現実
2 キリスト教徒との論争と日本の自覚
3 国民教育への着目と国民道徳
第11章 伊沢修二――音楽教育の創始から吃音矯正事業へ
1 官吏になった「理八」小僧
2 近代教育の開拓者――端緒を啓き適任者を待つ
3 国家主義と合理主義に基づく教育実践者
第12章 沢柳政太郎――教育界の渡り鳥
1 近代教育制度のはじまりとともに
2 沢柳の教育改革とその主張
3 理想の教育をもとめて
第13章 牧野富太郎――学歴を持たない植物学者
1 小学校での植物学への目覚め
2 経済困窮の中で不滅の研究
3 花や草木とともに90年の活躍
第Ⅲ部 大正・昭和時代
時代的背景
第1章 成瀬仁蔵――女子教育のパイオニア
1 聖書を持つ青年
2 女子教育への関心
3 日本女子大学校の創設
第2章 倉橋惣三――日本の保育理論の構築者
1 フレーベル研究者として
2 誘導保育論の形成
3 戦時下における国民幼稚園の主張
4 戦後の保育論――「誘導」から「自発」へ
第3章 及川平治
――教職の覚醒を引き起こした大正新教育運動の指導者
1 目の前の子どものために
2 大正新教育運動の社会的背景と教師の役割
3 方法意識の形成
4 カリキュラム理論の受容
5 及川の果たした役割
第4章 城戸幡太郎――生活主義と障がい児教育
1 障がい児教育への関心
2 「生活主義」の実践
3 戦前の教育科学運動と障がい児教育
4 戦後の障がい児教育構想
第5章 安倍能成
――戦後教育の形成に尽力したオールド・リベラリスト
1 安倍の思想形成とオールド・リベラリスト
2 京城帝国大学教授から第一高等学校校長へ
3 敗戦と文部大臣への就任
4 平和問題懇談会と『心』
第6章 長田 新――「ペスタロッチーに還れ」
1 教育学者への道
2 新たな教育学の追究
3 平和と子どものために
第7章 天野貞祐――道理を尊び,道理を畏れた教育改革の実践者
1 立志と修業の時代
2 学者・教育者の時代
3 文部大臣の時代
4 獨協大学の復興と自由学園
第8章 林 竹二――教育の再生をもとめて
1 学究の道
2 実践の跡
3 教育再生への訴え
第9章 遠山 啓――数学教育改革運動を推進した「数楽者」
1 数学を研究する隠遁者
2 数学教育の研究者
3 数学教育改革運動の指導者
4 民間教育運動の実践者――競争原理を批判する
第10章 無着成恭――戦後民主主義教育の申し子
1 教育の道を選択する
2 『山びこ学校』の誕生
3 『山びこ学校』からの脱出――科学主義を目指して
4 『にっぽんご』『続・山びこ学校』の誕生
5 『人それぞれに花あり』
――お坊さんが立ち上がらなければならない時代
コラム
藤原惺窩と林羅山――朱子学の受容とその教育史的意義
中村三近子——近世都市京都の往来物作者
広瀬淡窓——咸宜園の能力主義教育
佐久間象山——幕末における先覚的知識人
柳田国男——民俗学の父が語る「一人前になる教育」
羽仁もと子——よりよい教育,よりよい生活を子どもに
山本鼎——児童自由画と農民美術に懸けた夢
年表/人名索引/事項索引