メディア・リテラシーの諸相 表象・システム・ジャーナリズム
「メディア・リテラシー」が注目されるようになって久しい。しかし、マスコミの情報操作から身を守る手段、あるいは情報利用のスキル・マナーといった表層的な理解を越えて、メディア・リテラシーを切り口に現代社会とメディアの関わりを批判的に問い直した研究は少ない。本書はメディア・リテラシーの視座を、社会学やジャーナリズム研究、歴史学など社会科学の研究領域と接合させながら、現代のメディア社会をクリティカルに読み解いていく。立命館大学産業社会学部創設50周年記念学術叢書の一冊。
[ここがポイント]
◎ メディア・リテラシーの視座を、社会学やメディア・ジャーナリズム研究、歴史学など社会科学の研究領域に応用。
◎ 「メディア」をクリティカルに読み解くことでどのような研究ができるのか、その試みを提示する。
はじめに
第Ⅰ部 メディア・ジャーナリズムを読み解く
第1章 メディア・リテラシー実践の現状と課題
——カナダBC州中等学校の調査分析から(浪田陽子)
1 BC州の中等教育カリキュラムにおけるメディア・リテラシーの位置づけ
2 BC州ローワー・メインランドX学区の中等学校におけるメディア教育の現状
3 X学区の中等学校が抱えるメディア教育の課題
第2章 NIEが変える教育と新聞
——学習材としての新聞の「危うさ」と「面白さ」(柳澤伸司)
1 ある投書から
2 NIEの発展と現状
3 学校で新聞を使う
4 なぜ「新聞」なのか
第3章 原寿雄のジャーナリスト観
——「サラリーマン記者」に抗する思想(根津朝彦)
1 企業内記者の可能性
2 思想形成
3 ジャーナリスト観
4 ジャーナリストの歴史研究の課題
第4章 メディア・リテラシーから統計リテラシーを考える(長澤克重)
1 統計ブームと統計教育
2 メディア・リテラシーの基本概念と統計リテラシー
3 五つの基本概念の統計リテラシーへの適用
第Ⅱ部 メディア・表象・空間を読み解く
第5章 終戦記念番組としてのテレビドラマ(増田幸子)
1 テレビドラマにおける終戦記念ドラマの位置
2 終戦記念ドラマの歴史的推移
3 終戦記念ドラマの系譜とテーマの傾向
第6章 「戦跡というメディア」の成立と変容
——「摩文仁」をめぐる輿論と空間編成(福間良明)
1 「摩文仁」の誕生
2 「戦跡というメディア」の多義性
3 戦跡観光への不快感
4 おわりに——「戦跡というメディア」の構築と機能
第7章 三億円事件と学生運動家
——21世紀初頭の映画表象における「1968年」=〈政治の季節〉(日高勝之)
1 本章の背景とねらい
2 「昭和ノスタルジア」と「1968年」
3 学生運動家のその後
4 ポジティブに受け入れられた三億円事件
5 三億円事件を描いた1960年代、70年代の映画
6 三億円事件を描いた21世紀初頭の映画
7 女子高校生が実行犯——映画『初恋』
8 犯行の背後にある純潔性と自己犠牲
9 元学生運動家らの無残な死
10 結 論
第8章 鶴見俊輔の大衆文化研究とその応用
——片桐ユズル、マーシャル・マクルーハン、音楽文化との関連から(粟谷佳司)
1 限界芸術論から音楽文化へ
2 片桐ユズルによる鶴見とマクルーハンの応用
3 現代社会における大衆文化の読解と理解のために
第9章 マンガに集う/マンガで集う(瓜生吉則)
1 マンガに集う人々
2 「作り手/受け手」の〈あいまいな〉境界
3 「ぼくらのマンガ」とコミックマーケット
4 『少年ジャンプ』と「二次創作」
5 マンガで集うとは何事か
第Ⅲ部 メディア・システムを読み解く
第10章 電話リテラシーの社会史
——電話のマナー教育は、何を伝えたのか?(坂田謙司)
1 メディアとリテラシーと教育
2 電話への眼差しとリテラシー
3 アメリカの初期電話リテラシーと教育方法
4 日本の初期電話リテラシーと教育方法
5 電話リテラシー教育と標準化というマナーの普遍化
第11章 メディアスポーツ研究の実践的課題
——スポーツ中継番組における能動的な「読み手」の形成に関わる一考察(川口晋一)
1 メディアスポーツ研究とメディア・リテラシー
2 メディア・リテラシーと「スポーツ・リテラシー」
3 スポーツ中継番組における主体形成
第12章 世界的スポーツイベントにおける広告効果
——2014FIFAワールドカップブラジル大会の事例から(小泉秀昭)
1 先行研究
2 実証調査
3 新たなアンブッシュマーケティングの可能性
4 全体を通しての考察
第13章 私事化とマス・メディア
——国際比較データを使った試論(筒井淳也)
1 政治的関心と私事化
2 私事化の概念をめぐって
3 私事化とメディア
4 データと分析方針
5 記述的分析
6 モデル推定
7 考察と課題
第14章 送り手のメディア・リテラシー
——2000年代の到達点、10年代の課題と展望(飯田 豊)
1 地方局のショッピングモール進出
2 「送り手のメディア・リテラシー」の到達点
3 協働型メディア・リテラシーの課題と展望
4 情動、アーキテクチャ、リテラシー