社会保障の公私ミックス再論 多様化する私的領域の役割と可能性
現代の社会保障では、1980年代以降の効率的運営への社会的圧力の増大や、個人の選択を重視する価値観の広がりにより、私的領域の役割に関心が高まっている。セーフティネットの構築を行いつつ、個人の選択や自律を保障するために、市場・政府・社会はどのように対応しているのか。本書は、理念論争に終始しがちな公私ミックス論を、福祉国家論の変容の中に位置づけ、年金・医療・介護の国際比較とフランス・米国・日本の医療保険の事例分析をもとに、理論的・実証的に検討する。
[ここがポイント]
◎ 学際的視点から、現代の社会保障における私的領域の可能性を論じる
◎ 社会保障の運営主体や個人の選択のあり方、私保険や共済組合など、伝統的視点にとどまらない分析視座を提示
序 章 社会保障の公私ミックス(松田亮三)
――新たな検討に向けて
1 社会保障の公私ミックス再論
2 社会保障に関わる公私ミックス検討の注意点
3 本書の構成
第Ⅰ部 生活の安心と社会保障の公私ミックス
第1章 福祉国家の変容から見る公私ミックス(加藤雅俊)
――経済的繁栄の実現と政治的正統性の確保を通じた社会統合
1 福祉国家とは何か
2 ケインズ主義的福祉国家における公私関係
3 二つの変容圧力とその影響
4 競争志向の福祉国家における公私関係
5 福祉国家の変容と公私関係の再編
第2章 年金における公私ミックス(鎮目真人)
1 はじめに:公私ミックスの解明に向けて
2 多柱型年金
3 公私の年金制度の性質と問題点
4 私的年金制度の多様性
5 公私の年金ミックス
6 むすび:所得階層に配慮した公私ミックスに向けて
第3章 医療財政の公私ミックス(松田亮三)
――制度設計論の前提を考える
1 はじめに:医療機構における公私論
2 医療機構と公私ミックス
3 医療財政制度における公と私
4 日本の医療財政における公私ミックスの論点
5 むすび:医療機構の公私ミックス設計論に向けて
第4章 介護における公私ミックス(西野勇人)
1 はじめに:介護供給者の多元性と家族と政府の役割
2 高齢者介護政策をめぐる多様性
3 政府統計から見る各国の位置づけ
4 介護の公私ミックスと家族・ジェンダー
5 おわりに:高齢者介護の公私ミックス研究の方向性
第5章 19世紀フランス社会のメディカリゼーション(小西洋平)
――中間集団としての共済組合の役割
1 はじめに:問題の所在
2 連帯主義と共済組合
3 デュルケムにおける中間集団論
4 中間集団としての共済組合
5 フランス社会史研究におけるメディカリゼーション
6 共済組合の救済機能
7 おわりに:強制原理と自主管理の共存可能性
第Ⅱ部 医療セーフティネット:日仏米における医療保険の検討
第6章 日本における医療のセーフティネットは擦り切れているか(長谷川千春)
――雇用と健康保険,そして生活保護
1 はじめに:国民皆保険の下での「無保険」問題
2 日本の医療保険制度の特徴
3 医療費の財源
4 無保険状態を生み出す構造的要因
5 考察:社会保険方式の医療保険はセーフティネットたり得るか
第7章 普遍主義と私的財政(モニカ・ステフェン[松田亮三監訳,中澤 平訳])
――普遍的医療給付のフランスモデル
1 制度設計および関連する知的論争
2 社会的包摂:近代化、調和化、中央集権化
3 受給者、経費、財政
4 フランスの医療セーフティネットへの評価
第8章 米国における医療保険とセーフティネット供給者(髙*山一夫)
1 米国の医療保険制度の概要:医療保障の公私ミックス
2 オバマ医療改革:民間保険主導の普遍的医療保障の試み
3 米国医療におけるセーフティネット供給者
終 章 社会保障の公私ミックスのゆくえ(鎮目真人)
1 福祉の混合経済(ウェルフェアミックス)の発展
2 福祉の混合経済における各セクターの布置状況
3 公私ミックスの変容
あとがき
索 引