アスベスト公害の技術論 公害・環境規制のあり方を問う
アスベスト公害は、アスベスト製品の生産・流通・消費の過程で被害が拡散し、とりわけ中小零細事業者に深刻な被害をもたらした。安価で優れた耐火性、耐摩耗性という機能から大量に利用され、有害性が認識され始めてもなお、規制が遅れた。今日、科学的に安全性が証明されていない新素材が多く利用され、同様の問題が発生する可能性は否定できない。本書は、泉南アスベスト国賠訴訟弁護団の依頼により、裁判資料として調査・分析を行った研究成果である。技術論の視点から、欧米の先行事例と比較分析し、今後の公害・環境規制の在り方を問う。
[ここがポイント]
◎ 泉南アスベスト訴訟最高裁勝訴判決の原調査
◎ 綿密な実態調査と技術的側面からの分析
◎ 英独アスベスト公害との技術的対策の比較
序 章 アスベスト問題と環境論・公害論──本書の目的と環境・公害の一般理論(田口直樹・杉本通百則)
1 本書の課題と分析視角
2 公害・環境問題の理論
第Ⅰ部 アスベスト紡織産業における粉塵対策
第1章 アスベスト問題と局所排気装置──泉南地域における集塵対策の実態を踏まえて(田口直樹)
1 集塵対策の基本技術
2 集塵装置の種類と歴史
3 アスベスト粉塵と局所排気装置
4 日本におけるアスベスト粉塵対策と技術的体系化の時期
5 問題の所在と国家の責任:結びにかえて
第2章 戦前日本の粉塵対策技術とアスベスト産業規則の可能性(中村真悟)
1 粉塵対策の技術体系
2 戦前日本の粉塵対策技術に関する知見
3 粉塵対策技術の導入状況
4 戦前におけるアスベスト産業規則の可能性
第3章 イギリスにおける1931年アスベスト産業規則の成立(中村真悟)
1 イギリスのアスベスト対策をめぐる先行研究の評価
2 1931年規則成立の条件
3 1931年規則の成立過程
4 1931年規則の意義と課題
第4章 1930年代後半のアメリカ・ドイツにおけるアスベスト紡織工場の粉塵対策技術(杉本通百則)
1 アスベスト粉塵対策の技術的基盤の確立とはなにか
2 アメリカにおける1930年代のアスベスト紡織工場調査
3 アメリカにおけるアスベスト粉塵測定技術とその評価
4 アメリカにおけるアスベスト粉塵対策技術とその有効性
5 アメリカ公衆衛生局の1938年の「勧告」とその評価
6 ドイツにおけるアスベスト肺がんの医学的知見と職業病法
7 ドイツにおけるアスベスト粉塵対策に関する工学的知見
8 ドイツの1940年の「ガイドライン」
9 ドイツの「ガイドライン」による粉塵規制の評価
10 1930年代後半のアスベスト粉塵対策の意義と限界
第Ⅱ部 建設アスベスト問題における課題と論点
第5章 建築産業の生産システムとアスベスト問題(澤田鉄平)
1 建築産業のアスベスト問題
2 建築労働者に広がるアスベスト被害
3 建築生産システム
4 アスベスト粉塵と建築労働
第6章 建設アスベスト問題における粉塵対策の基本原則と粉塵対策技術(田口直樹)
1 建築現場における粉塵対策の特殊性
2 建設アスベスト問題を考える上での根本的問題点
3 建築現場におけるアスベスト粉塵対策
4 粉塵対策の基本原則と粉塵対策において集塵装置付き電動工具の持つ意味
第7章 イギリスにおける建設アスベストの粉塵対策と代替化の展開(杉本通百則)
1 建設アスベスト問題の所在
2 建設アスベストを対象とした法的規制
3 建設アスベストの危険性の認識
4 建設アスベストの粉塵対策・規制の実態
5 建設アスベストの代替化の展開
第8章 ドイツにおける建設アスベストの粉塵対策と代替化の展開(杉本通百則)
1 建設アスベストを対象とした法的規制
2 建設アスベストの危険性の認識
3 建設アスベストの粉塵対策・規制の実態
4 建設アスベストの代替化の展開
5 建設アスベスト問題の解決に向けて
終 章 アスベスト公害の理論問題(杉本通百則)
1 アスベスト公害の教訓とはなにか
2 泉南アスベスト公害の理論
3 建築アスベスト災害の理論
参考文献
あとがき
人名索引
事項索引