昭和文化のダイナミクス 表現の可能性とは何か
激動の昭和のなかで闊達に自由な表現を求め、新しい世界を拓いた挑戦者たちがいた。彼らの活動の根源を探ることを通して、「表現」の意味と可能性を現代に問う。
[ここがポイント]
◎ 昭和を代表する表現者などによる執筆。
◎ 貴重な図版を多数掲載し、視覚的にも楽しめるよう工夫。
◎ 読者対象はサブカルチャーやメディア史などの研究者をはじめ、一般読者。
1 自由と閉塞感が同居する時代
2 表現文化への影
3 表現者たちの挑戦と現在
4 昭和から現在へ
第Ⅰ部 表現――その魅力の源泉をたぐりよせるために
第1章 昭和前期の漫画メディアと漫画家たち(夏目房之介)
1 明治―大正の漫画
2 昭和期モダニズムと漫画
3 芸術運動と漫画
4 エロ・グロ・ナンセンスと新漫画派集団
5 戦争期の漫画家たち
6 戦後漫画との断絶と連続
第2章 少年探偵団の生き物の愛しかた(浜田雄介)
――ボーイスカウトとサーカス
1 探偵団以前の少年探偵たち
2 少年探偵団とボーイスカウト
3 少年探偵団とサーカス
4 チンピラ別働隊と動物愛護
第3章 映画と彫刻は兄弟(萩原朔美)
――映像表現とテクノロジーについて
1 映画が拓いた実験
2 実験の消失と個人映画
3 ポーターパックのもたらしたもの
4 彫刻と映画にとっての「私」
――他への接近をめぐって
第Ⅱ部 メディアを介在させない、という戦略
第4章 紙芝居が「俗悪」だった頃(鈴木常勝)
1 「ルンペン文化」誕生
2 「紙芝居だよ、人生は」
3 〈世の隠し事〉を見せてやろうか?
4 紙芝居屋、退場!
第5章 フォークを歌う、ライブで歌う(中川五郎)
1 フォークが拓いた世界
2 素朴なメッセージの強さ――高石ともやとピート・シーガー
3 メジャー化の窮屈さから脱するスタイル
4 ライブへのこだわり
第Ⅲ部 抑圧されたものをこそ愛すること
第6章 ゲテモノから女王へ(市川孝一)
――美空ひばりとその時代
1 戦後復興期のアイドル美空ひばりとは
2 両義性の人気者Ⅰ――ゲテモノ誕生まで
3 両義性の人気者Ⅱ――差別、嫉妬、アウトロー
4 時代の殉教者としてのひばり
第7章 村上春樹とジャズ(宮脇俊文)
――新しい文体が模索するもの
1 新しい文体の誕生
2 リズム、即興、スイング
3 軽い文体と重い憂鬱なテーマ
4 「個」と「自由」の確立を求める文体
第8章 自然・生態系のファンタジスタ(千葉伸夫)
――宮崎駿のインパクト
1 ユーラシア大陸の龍
2 宮崎のフィルモグラフィーと主テーマの変容
3 社会的反響の広がりをめぐって
4 ヌーヴェルヴァーグ、スピルバーグ、そして世界の宮崎へ
第Ⅳ部 内なる外部を覚醒させよ
第9章 トランスジェンダー・カルチャーの昭和史(三橋順子)
1 トランスジェンダーとはなにか
2 歴史の中に女装者たちの足跡をたどる――前史として
3 昭和のトランスジェンダー・カルチャーをたどる
4 日本のトランスジェンダー・カルチャーの特質――日本人は女装が好き?
第10章 挑発を仕掛ける(榎本了壱)
――『天井棧敷』と『ビックリハウス』
1 アンダーグラウンド・シアター、立ち上がる
2 天井棧敷、ヨーロッパへ行く
3 渋谷のタウン誌の挑戦――若者を新宿から奪え
4 笑いの中にこそ挑発を――パロディ・ヘンタイ・アバンギャルド
第11章 舞踏(山田せつ子)
――未知の世界が開いたもの
1 舞踏のはじまり
2 踊る衝動の訪れ
3 踊ることの謎に導かれて
4 『天使館』という場所
5 舞踏というイデア
エピローグ 表現者たちと現代社会(中江桂子)
1 人は、みな、かいぶつである
2 合理主義と差別意識は同居する
3 体験へのアパシーを超えて
4 あいまいさの社会的効用――「表現」の必要性について
5 承認の相互性――私たちには他者が必要である
6 かいぶつたちを抱きしめて――いま、寛容の精神に力を
あとがき(中江桂子)