「自白」はつくられる 冤罪事件に出会った心理学者
「心理学者」である著者がはじめて「事件」に出会ったのは、今から40年前、知的障害児施設で溺死体が発見された甲山事件の裁判でのことであった。その後も帝銀事件、名張毒ぶどう酒事件、袴田事件と、様々な「事件」と出会うが、その「事件」たちが簡単には終わらない――。冤罪主張の事件において「心理学者」という名目で、主としてその自白の供述鑑定を行ってきた著者が、被疑者の「渦中の視点」からその自白の意味を読み解く途を探る。
[ここがポイント]
◎ なぜ無実の人が噓の自白をしてしまうのか。その理由を心理学者の視点から「科学」の目で探求。
◎ 甲山事件、帝銀事件、袴田事件などを取りあげ、事件の経緯から供述分析の過程に至るまでを丁寧に記述。
1 「事件」との最初の出会い
2 終わらない「事件」たち
第Ⅰ部 「事件」を語ることばの世界
第1章 「事件」に迫る心理学を模索して
1 最初に出会った事件──甲山事件
2 事の本質は細部に現れる
3 「ことば」とことばが作り出す「世界」
4 ことばと現実
第2章 語りの臨場モデル
1 「事件」を語るということ
2 供述聴取と記憶の働き
3 ことばが現実を立ち上げる
4 許せない判決
第Ⅱ部 「自白」の謎に出会う
第3章 冤罪事件の最大の暗部である虚偽自白
1 自白がネックとなった多くの事件
2 無実の人が自白に落ちる心理
3 無実の人が犯行筋書を語る心理
4 真の自白と虚偽の自白をどう判別するか
5 確定死刑囚の釈放
第4章 犯人を演じる──「賢いハンス」現象
1 虚偽の自白がなぜ見抜けないのか
2 生還できなかった無期懲役囚の事件
3 ことばの背後にあるコミュニケーション
4 「賢いハンス」状況から抜け出せない人たち
第Ⅲ部 虚偽自白の罠を解く
第5章 虚偽自白の根にある対話
1 冤罪の争いはことばの争い
2 自白が無実を明かす
3 噓*を生み出すことばの世界
4 噓*はその場の状況の産物
5 出来事を語る三つの対話タイプと虚偽自白の噓*
6 自白に落ちたのに犯行筋書を語れない
第6章 自白的関係に抱き込まれた語り
1 70年ものあいだ解けなかった自白の罠
2 被疑者の「語れなさ」に目をつむる取調官
3 平沢貞通事件の謎
4 自白的関係から抜け出す
5 寡黙な物証と饒舌な自白
第7章 もう一つの虚偽自白──真犯人もまた虚偽の自白に落ちる
1 真犯人の虚偽自白
2 「モンスター」になった少年
3 情動犯罪における事実認定
4 事実の認定に納得できない犯行者
第Ⅳ部 「事実認定学」のために
第8章 日本型「精密司法」の悪弊
1 「精密司法」は精密か
2 取調官たちの心理
3 人間の現象につきあう
第9章 冤罪事件に終わりはない
1 冤罪にかかわる二つの大ニュース
2 事実の認定は証拠による
おわりに