ラテンアメリカはどこへ行く
ラテンアメリカは、世界の姿を映し出す鏡でもある。格差の拡大、スラム街の膨張、麻薬カルテルの台頭、暴力の広がり、資源開発による自然破壊、米国で急増するヒスパニック人口、一進一退する「米国離れ」現象、先住民運動の発展、多民族共生社会の追求などは、課題が山積する現代世界の縮図ともいえる。本書では、21世紀においてラテンアメリカに生起する重要な問題を取り上げ、その原因や行方を探る。
[ここがポイント]
◎ 政情不安や貧困に苦しんできたラテンアメリカは、いまいかなる現状にあり、そして課題を抱えているのか。
◎ 第一線のラテンアメリカ研究者による道案内。
序 章 21世紀におけるラテンアメリカの課題(後藤政子)
1 独立から200年——「ボリバルの夢」は実現するか
2 20世紀のラテンアメリカ
3 21世紀のラテンアメリカ
第Ⅰ部 ポスト新自由主義に向けた社会構想——その経緯と現在
第1章 新自由主義に対峙する「左派」政権——その可能性と諸困難(松下 冽)
1 左派政権の波
2 新しい左派政権の出現と特徴
3 左派政権における「国家—市民社会」関係
4 社会運動と国家
5 ポスト新自由主義に向けたガバナンス構築
第2章 ラテンアメリカのピンクの波——新たな変革の道を模索するラテンアメリカ(河合恒生)
1 ピンクの波
2 背 景
3 社会運動の激化
4 政策の特徴
5 課 題
第3章 米州の地域統合——その歴史と現在(所 康弘)
1 地域統合の歴史的変遷
2 「開かれた」地域主義の出現
3 21世紀の多元的な地域統合の進展
4 新しい地域主義プロジェクトの行方
5 ポスト新自由主義と地域統合の行方
コラム1 貿易・投資を通じた中国のラテンアメリカへの影響(田島陽一)
第4章 ラテンアメリカの先住民運動——その歴史的展開と多様性(宮地隆廣)
1 ラテンアメリカの先住民とその運動
2 20世紀の先住民運動
3 21世紀の課題(1)——権力への接近・同一化
4 21世紀の課題(2)——権力からの離反
5 グローバル・サウスとラテンアメリカの先住民運動
第5章 グローバル・バリューチェーンと社会的統治——底辺への競争を超えて(小池洋一)
1 グローバル・バリューチェーンの形成
2 グローバル化と格差
3 グローバル・バリューチェーンの社会的統治
第6章 ラテンアメリカ経済社会の変化——ブラジルの住宅政策に焦点を当てて(山崎圭一)
1 本章の目的と分析方法
2 ラテンアメリカ地域の「ルーブリック方式」による素描
3 ブラジルの考察
4 ブラジルの住宅政策
5 「中所得国の罠」から抜け出せるか
第7章 在米ラティーノの影響力——求められる新しいラテンアメリカ・米国関係(北條ゆかり)
1 在米ラテンアメリカ移民の実像を探る
2 越境する人々——メキシコと米国の間で
3 中米北部3カ国を逃れて北へ向かう人々
4 移民が外交関係にもたらしうる影響とは
コラム2 米国のヒスパニック——カリフォルニアの「レコンキスタ」(伊藤千尋)
第Ⅱ部 ラテンアメリカ諸国の課題
第8章 キューバ——「平等主義社会」から「公正な社会」へ(後藤政子)
1 なぜ、キューバ革命は生き永らえることができたのか
2 革命——モンカダ兵営襲撃から革命政権成立まで
3 「社会主義へ」
4 「社会主義」を見直す
5 21世紀のキューバ——「公正な社会」へ向けて
第9章 ベネズエラ——社会的政治的多様性と反新自由主義(スティブ・エルナー[河合恒生訳])
1 チャビスタの改革
2 接 収
3 地域協議会と非統合諸セクター
4 チャビスモ内部のビジョンと利害の対立
5 チャベス死後の展開
6 空虚なシグニファイアとチャビスタ運動内の葛*藤
第10章 ブラジル——ラテンアメリカの経済動向との比較と「中所得国の罠」(田中祐二)
1 「中所得国の罠」と構造転換アプローチ
2 プロダクト・スペースと構造転換
3 構造転換を阻止する要因と直接投資流出入——ブラジルとラテンアメリカ
4 ブラジル経済の減速と「中所得国の罠」
第11章 メキシコ——新自由主義と麻薬取引と暴力(ビクトル・ロペス・ビジャファニェ[後藤政子訳])
1 安全な国メキシコの変貌
2 メキシコにおける新自由主義政策
3 米国とメキシコの麻薬貿易
4 爆発する暴力
コラム3 サパティスタ運動の現在——メキシコからの手紙(レイナ・カタリーナ・ペレス・アルカサル、フェルナンド・エルナンデス・ペレス[後藤政子訳])
第12章 コスタリカ——エコツーリズムと新自由主義(小澤卓也)
1 コスタリカへの新たな眼差し
2 「エコツーリズム発祥の国」の歩み
3 米国への依存と変容するコスタリカ
4 新自由主義時代の観光とエコツーリズム
5 エコツーリズムの未来に向けて
第13章 アルゼンチン——ペロニズムという政治現象を読み解くために(アレハンドロ・M・シュナイダー[後藤政子訳])
1 ペロニズムの成立
2 ペロン亡命から復帰へ
3 民政復活——ペロニズムの変貌
4 ネストル・キルチネル政権
5 ペロニズムに阻まれた左翼労働運動の発展——結論に代えて
第14章 チリ——コンセルタシオン政権と新自由主義の行方(岡本哲史)
1 分析の視角
2 コンセルタシオン政権の功績
3 コンセルタシオン政権による新自由主義の継承と修正
4 コンセルタシオン政権の問題点
5 コンセルタシオン政権は新自由主義政権なのか
6 新自由主義の行方
コラム4 格差社会チリにおける教育自由化(近藤元子)
関係年表
人名索引
事項索引