「大分岐」を超えて アジアからみた19世紀論再考
本書は19世紀アジアの経済発展をグローバルヒストリーの観点から検討する。従来、欧米中心の近代世界システムに従属的に包摂されたとされるアジアを、南・東南・東アジアでの農業開発・工業化に着目し、アジアの相対的自立性の観点から再考、20世紀後半の「東アジアの経済的再興」の起源を明らかにする。18世紀の「大分岐」により19世紀が「ヨーロッパの世紀」になったとのポメランツ「大分岐」論を相対化する意欲作。
[ここがポイント]
◎ 『アジアからみたグローバルヒストリー』をさらに深化させた、2005年以来の共同研究の集大成。
◎ 19世紀アジアの「帝国と通商ネットワーク」論において、本研究のアプローチで経済発展過程を歴史的に論じる研究は世界初であり、グローバルヒストリー研究に新たな研究領域を創出することができる。
第Ⅰ部 19世紀を再考する
第1章 アジアからみる19世紀像再考(秋田 茂)
1 本書の課題
2 19世紀の近代グローバル化と「大分岐」
3 アジアにおける生産・流通・市場の二重構造化と工業化
4 小農生産と商人資本が結合した農業開発の展開
5 20世紀後半への展望
第2章 インドと19世紀の世界経済(アディティア・ムカジー[秋田茂訳])
1 グローバル・サウスからの19世紀史再考
2 「修正主義」解釈の批判
3 インドの脱工業化
4 多角的貿易決済とインド
5 脱植民地化の意義
第3章 19世紀のアメリカ帝国(A. G. ホプキンズ[安井倫子訳])
1 アメリカ「帝国」に関する新たな見解
2 プロト・グローバル化と帝国
3 近代グローバル化――1850年から1950年
4 グローバル化と帝国主義
第Ⅱ部 アジアにおける工業化の端緒
第4章 19世紀末インド綿紡績業の発展と「アジア間競争」(秋田 茂)
1 「植民地工業化」論再考
2 19世紀末の英領インド「工業化」の概観
3 インド機械紡績業の勃興と東アジア市場
4 日本郵船ボンベイ航路とインド棉花――補完・協力
5 海運同盟との競争と妥協
6 「アジア間競争」の展開――ボンベイと大阪の対中綿糸輸出
7 協調と競争のダイナミズム
第5章 近代中国における機械工業の発展――1860-90年代の上海造船業を中心に(久保 亨)
1 中国近代工業の研究史
2 19世紀香港及び上海の外資系造船業の発展
3 1860~90年代上海のボイド造船とファーナム造船
4 グローバル経済史への含意
第6章 アジア石炭貿易における日本とインド(杉山伸也)
1 グローバルヒストリーのなかの石炭
2 東南アジア・南アジアの石炭貿易――関係史的考察
3 日本の石炭産業――比較史的考察
4 インドの石炭産業――比較史的考察
5 日本とインドの比較関係史
第Ⅲ部 アジアにおける農業開発
第7章 19世紀アジアの農業開発の評価をめぐって(水島 司)
1 アジアの小農開発とグローバル・エコノミーの展開
2 19世紀南インドの人口・土地・農業開発
3 開発の進展と制度的・経済的・社会的要因
4 開発の進展と村落の社会変化
5 小農開発のプロセス
6 マレーシアとビルマのNC
7 アジアの開発・小農・エージェント
第8章 インドネシア・北スラウェシにおけるコーヒー栽培――19世紀半ばにおける「自主栽培」の発展と貨幣経済の深化(太田 淳)
1 北スラウェシのコーヒー栽培と東南アジア経済史の課題
2 ミナハサの環境と歴史
3 先行研究と本章の視点
4 強制栽培制度とその問題点
5 コーヒーの自主栽培
6 コーヒー栽培のもたらしたインパクト
7 ミナハサ社会の変容
第9章 タイ米経済の発展と土地法――1901年土地法制定とその影響(宮田敏之)
1 問題の所在――タイ米経済・土地法・ラーマ5世の外交戦略・担保登録
2 タイ米経済の発展
3 タイにおける土地の占有と所有――制度の変遷
4 1901年土地法の制定と地券発行の影響
5 グローバルな政治経済の変容とタイの土地法・地券
第10章 世紀転換期のインドシナ北部山地経済と内陸開港地――「華人の世紀」との連続性に注目して(岡田雅志)
1 インドシナ北部山地と広域経済
2 世紀転換期前後の地域間貿易構造
3 商人ネットワークの拡張と変容
4 地域社会の対応と経済動態――ダー河流域を事例に
5 退行か定常化か
第11章 ロシア極東の経済発展と農業移民――人口移動から見たロシア帝国と東アジア(左近幸村)
1 ロシア極東へ向かう人々
2 19世紀のロシア極東統治の概要
3 1895年の調査に見る沿海州とアムール州の比較
4 日露戦争後の方針転換
5 日露戦争後のロシア極東の農村
6 ロシア帝国にとってのロシア極東の意義と東アジア
あとがき
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