法をひとつの言説として分析するということが、実際にどのような視点で、どのような法の断面を切り出そうとして行われるのかについて、現代の社会理論をふまえて議論する。その際の基本的な視点は法は言説的に構築されるものとして、社会内の多様なパースペクティブをそのうちに含み込んで存在している、ということである。これは法学的な透明なルールとしての法の理解とは対立するが、そうしたある意味で不純な法を通じて、法は社会的に有意味なルールとして妥当していくのであり、この法の優れて社会学的な観察を行うものが、法の言説分析である。
はしがき序 法の解釈と法言説(棚瀬孝雄) 1 法理と日常世界1 法廷における法言説と日常的言説の交錯 ――医療過誤をめぐる言説の構造とアレゴリー(和田仁孝)2 医事鑑定の語るもの――医療過誤訴訟にみる医療と法(渡辺千原)3 法的現実の解凍――契約法理のイデオロギー性 (R・W・ゴードン/手嶋昭子訳)4 効率的契約違反論あるいは市場構築の企投的言説 ――契約法解釈方法論における物語論的転回のための序章(船越資晶) 2 権利の中心と周縁5 憲法の言説分析――Bowers v. Hardwickを素材として(佐藤憲一)6 結婚する権利――法は愛を語れるか(南野佳代)7 ライツトークの語れなさ――法の言説分析と「語られないこと」の位置 (望月清世) 3 法の言説戦略8 「故意」と「過失」の行為美学 ――「うっかり」するより「わざと」する?(宮原浩二郎)9 フランス国籍法をめぐる言説 ――フランス国籍法委員会報告の言説を手がかりに(澤 敬子)10 法的決定の脱文脈的正当化――行政事件における判決理由の言説分析 (阿部昌樹)索 引