漱石、芥川、菊池等の小説技法を継承し、私小説、純文学に敢然と闘いを挑んだ清張文学の豊饒さを示す。欧米の影響を受けて小説技法が開花した20世紀初頭の日本小説の充実は漱石に代表されるが、やがて私小説の台頭により日本小説は隘路に入り込んでいく。そんななか、華やかな技法を継承し駆使したのは菊池寛や芥川らの技巧派だったが、芥川の早逝、菊池の「通俗化」により、その流れは脇に追いやられる。戦後、この流れを復活・継承し、川端康成に代表される私小説・純文学に闘いを挑んだのが清張だった。そしてそれは大衆の圧倒的な支持を受ける。本書は、文学史の書きかえをも視野に入れながら、漱石・菊池らから清張に継承された技法の豊かさ、ひいては文学の豊饒さを、清張作品を例に明らかにしていく。
I 本流としての清張文学1 ミステリーの自覚 菊池・芥川の地層と清張2 本流としての清張文学 漱石から清張へ II 清張の闘い3 清張と本格派 乱歩封じ込め戦略のてんまつ4 「天城越え」は「伊豆の踊子」をどう超えたか5 清張と純文学派 対決の構図 III 清張ミステリーの多彩な実践6 迷宮としての「地方紙を買う女」7 「氷雨」とその時代 売春防止法前後8 小説とノンフィクション9 メディアと清張ミステリー IV 松本清張と水上勉10 松本清張と水上勉 水上勉における日本型小説への回帰11 水上勉の社会派ミステリー 『飢餓海峡』の達成