わいせつを規制して、一体誰を守るのか?性の表現とそのタブー、境界はどこにあるのか。日米の比較法的考察により、思考方法を提起する。本書では、わいせつ表現・性的有害表現・児童ポルノ表現という代表的な性表現規制類型について、日米の判例を中心とした比較法的検討を加える。具体的には以下の点を中心として検討する。わいせつ概念をいかに把握すべきか。わいせつ表現を含む性表現規制の根拠を、多数派の性的選好であるシンプルな性モラルに求めるべきか、または功利主義をベースにおく危害に求めるべきか。正当な性表現規制の根拠から性表現をコントロールする理想の法モデルはどのように構築されるべきか。このような性表現規制の難題に対する解決への思考方法を示す。
はしがき――性表現規制の現状とその問題の所在 第 I 部 わいせつ概念:日米の比較法的検討問題の所在:定義をめぐる長期に渡る混乱第1章 アメリカ合衆国におけるわいせつ概念 I――わいせつ概念の形成と完成 1 わいせつ概念の形成 2 相対的わいせつ概念 3 わいせつ概念の完成第2章 アメリカ合衆国におけるわいせつ概念 II ――インターネット上の性表現に対する地域的基準の適用 1 インターネットと表現の自由 2 2002年 American Civil Liberties Union 判決 3 インターネット上の性表現と地域的基準第3章 日本におけるわいせつ概念 1 わいせつ概念の形成と完成 2 わいせつ概念の再構築小 括 第 II 部 性モラル規制と功利主義的危害規制問題の所在:性モラル維持による性表現規制正当化の可否第4章 モラルアプローチ 1 モラル規制の意義 2 デヴリンとハートの論争 3 リベラリズムの台頭 4 リーガル・モラリズムの再生 5 連邦及び州政府の性モラル規制権限第5章 功利主義的危害アプローチ 1 功利主義的危害の意義 2 性表現を鑑賞する本人に対する危害 3 他者に対する危害 4 社会に対する危害小 括 第 III 部 アメリカ合衆国における判例の展開問題の所在:多様な性表現規制に苦悩するアメリカ合衆国第6章 性モラル規制の許容性――プライベートなソドミー行為規制の合憲性 1 判例の流れ 2 ソドミー行為の自由とプライバシー権 3 ソドミー規制と平等保護 4 ソドミー規制とモラル規制第7章 功利主義的危害規制の許容性 I ――ゾーニング規制の合憲性 1 判例の流れ 2 ゾーニング規制と内容中立規制 3 ゾーニング規制権限の限界第8章 功利主義的危害規制の許容性 II ――商業施設における全面的性表現禁止規制の合憲性 1 判例の流れ 2 規制根拠からみた判例の妥当性 3 州のアルコール規制権限とヌード・ダンス規制 4 ヌード・ダンス規制と2次的影響の理論 5 ヌード・ダンス規制と内容中立規制小 括 第IV部 日本における判例の展開問題の所在:法規制と現実の間隙に苦悩する日本第9章 わいせつ表現規制の限界 1 最高裁判所判例の流れ 2 学説の批判とその検討第10章 性的有害表現規制の限界 1 青少年保護育成条例の概要 2 有害図書規制制度の概要 3 最高裁判所判例の流れ 4 学説の批判とその検討小 括 第 V 部 補論:児童ポルノ規制の限界問題の所在:児童ポルノ類型の複雑化に伴う法規制の展開第11章 アメリカ合衆国における児童ポルノ規制 1 立法経緯及び連邦最高裁判所判決の流れ 2 児童ポルノ法理の形成 3 真正児童ポルノ単純所持規制の合憲性 4 擬似的児童ポルノ単純所持規制の合憲性第12章 日本における児童ポルノ規制 1 旧児童ポルノ法の成立とその問題点 2 児童ポルノ関連の条約採択 3 旧児童ポルノ法の改正 4 残された問題点小 括終 章 性表現規制の展望 1 世表現規制総括 2 世表現規制の方向性と残された課題 3 リベラリズム・共同体論との思想的距離あとがき事項索引米国判例索引