専門性の政治学 デモクラシーとの相剋と和解
複雑化した現代社会においては、様々な専門性を活用することなしには有効な政策決定は難しい。その一方で、専門家への依存は、民意を主とするデモクラシーとは相反することがある。専門性とデモクラシーとの間には相剋と和解の両面が存在するのである。本書は、専門性とデモクラシーの関係の多義性に配慮しつつ、比較の視座や歴史的視座に基づき先進諸国の政策決定を分析することを通じ、政治における専門性の役割を解明する試みである。
第1章 専門性の政治学に向けて(伊藤 武/内山 融)
——デモクラシーと専門性の関係を軸に
1 現代デモクラシーにおける政策形成と専門性
2 本書の分析射程
3 比較政治学への貢献
第2章 専門性研究の再構成(岡山 裕)
1 「共通のラベル」を越えて
2 専門性および専門家概念の再検討
3 政治のなかの専門家
4 専門家の行動様式
5 専門性研究の成熟に向けて
第Ⅱ部 政治体制のなかの専門性
第3章 日英の経済政策形成と専門性の役割(内山 融)
——政府エコノミストを中心として
1 専門家が役割を果たす条件
2 経済政策形成への専門家の参画
3 分析枠組み
4 日英の相違はいかに説明されるか
5 小泉政権以降の変化
6 専門性のゆくえ
第4章 権力からの逃走?(伊藤 武)
——イタリア戦後体制の形成とテクノクラート政治
1 テクノクラートの役割と評価
2 イタリアにおけるテクノクラート神話と専門性
3 テクノクラート論とテクノクラート神話の構造
4 戦後再建とテクノクラート——1940年代後半
5 経済発展とテクノクラート——1940年代末〜1950年代
6 神話化と脱神話化のパラドクス
第5章 EUにおける専門性とテクノクラシー問題(川嶋周一)
——コミトロジーとデモクラシーの関係をめぐって
1 EUにおける専門性の政治
2 EU政策過程と専門性
3 コミトロジー・システムの成立
4 コミトロジーの定着と制度改革
5 専門性の政治から政治化された専門性へ?
第Ⅲ部 政策過程のなかの専門性
第6章 医薬品行政における専門性と政治過程(藤田由紀子)
——合意形成が困難な行政領域での役割
1 アクター間の合意形成が難しい分野の専門性
2 医薬品行政の特徴
3 医薬品承認審査における専門性の内容
4 専門性による組織の正統性の補完?
5 「専門性」をめぐる政治過程
6 専門性活用のための残された課題
第7章 日本の金融検査行政と「開かれた専門性」(伊藤正次)
——その態様と可能性
1 行政における「専門性」
2 日本の金融検査行政の構造
3 金融検査行政における「専門性」
4 「開かれた専門性」への可能性
第8章 専門家の国際ネットワークと金融交渉(杉之原真子)
——日米政府間交渉における「専門家」の権限
1 日米金融交渉と専門性
2 国際交渉における「専門家」としての官僚と権限委譲
3 日米金融交渉と「専門家」の国際的ネットワーク
4 日米金融交渉の事例研究
5 権限委譲と政策結果
6 専門家の国際的ネットワークの役割
第Ⅳ部 デモクラシーと専門性
第9章 ブレア・スタイルとデモクラシーのゆくえ(高橋直樹)
——強大な首相権力にみるトップダウンの影響
1 伝統スタイルとの摩擦
2 ブレア・スタイルの政府
3 権力の集中
4 ブレア・スタイルの代償
5 デモクラシーの不足とその治療法
第10章 専門性とデモクラシーの文脈化(伊藤 武)
——発展と変容
1 デモクラシーのなかでの専門性
2 歴史的前提——デモクラシーの発展と専門性の変容
3 戦後デモクラシーと専門性——専門性の政治化・非政治化
4 非政治的専門性をめぐる政治競合
あとがき
索 引