厚生と権利の狭間
日本を代表する理論経済学者であり、ケネス・アロー、アマルティア・センらと並ぶ厚生経済学・社会的選択理論の国際的権威として知られる鈴村興太郎。40年以上にわたり経済学の第一線で研究を続ける傍ら、国内外の様々な学会や委員会などでも活躍してきた背景はどこにあるのか。本書では、研究者としての苦闘と成長の軌跡を辿りつつ、厚生と権利という2つの価値の狭間を探究し続けてきた自らの研究のエッセンスを紹介する。
[ここがポイント]
・日本を代表する経済学者は、厚生経済学・社会的選択理論をどのように発展させてきたか。
・知られざる苦闘と成長を余すところなく語る。
第一章 古窯の町、常滑に生まれて
1 生い立ちの記
2 怖いものの記
3 社会への覚醒の記
第二章 大学と大学院時代の遍歴――《黄金の夏》と研究生活への出発
1 小平キャンパスの教養教育――《詩と真実》
2 国立キャンパスの四季
3 大学院時代の研鑽
4 一橋大学から京都大学へ
第三章 母校からの跳躍と世界への挑戦
1 《自由》の季節――京都とケンブリッジ
2 社会的選択の理論の探求――LSEでの研究と講義
3 国際的ネットワークの形成――スタンフォード大学時代
4 収穫の季節と挫折の播種
第四章 厚生経済学と社会的選択の理論⑴――第Ⅰ期の播種と収穫
1 合理的選択と顕示選好――《鈴村整合性》と順序拡張定理
2 アローの一般不可能性定理と隘路からの脱出路
3 センの権利論――《厚生》と《権利》の狭間
4 拡張された同感アプローチ――効率と衡平のジレンマ
コラムⅠ 非合理的な選択関数の存在可能性
コラムⅡ 選好の推移性と選択肢の識別能力
コラムⅢ 選択の完全合理性・合理性・経路独立性
コラムⅣ 合理的選択と顕示選好の一般理論
コラムⅤ アローの社会的選択理論と一般不可能性定理
コラムⅥ チャタレー夫人の恋人の例
コラムⅦ 衡平性と効率性のトレード・オフ
第五章 母校への帰還――《冬の時代》を経て再び世界へ
1 一橋大学経済研究所――《冬の時代》と『日本の産業政策』
2 オーストラリア国立大学とペンシルヴァニア大学
3 オックスフォード大学オール・ソウルズ・カレッジ
4 ハーヴァード大学とケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ
第六章 厚生経済学の実践的側面――産業政策・通商政策・競争政策
1 《日本の産業政策》プロジェクト
2 日本の通商政策――GATT/WTO 体制と『不公正貿易報告書』
3 《日本の競争政策》プロジェクト
4 公正取引委員会と競争政策研究センターの創設
第七章 厚生経済学と社会的選択の理論⑵――第Ⅱ期の播種と収穫
1 競争と経済厚生――《過剰参入定理》
2 センの権利論とゲーム形式の権利論
3 手続き的衡平性と厚生主義
4 選択機会の手段的価値と内在的価値
コラムⅧ 過剰参入定理
コラムⅨ 選択の自由とゲーム形式の権利論
コラムⅩ 禁煙家優先ルールと嫌煙家優先ルール
コラムⅪ 消費者選択理論の帰結主義的基礎
第八章 日本の学術の一層の発展のために
1 査読制学術雑誌の編集と改革
2 エコノメトリック・ソサエティ――極東会議の復活と主催
3 日本学術会議――人文・社会科学と自然科学の相補性を目指して
4 競争的研究助成制度の在り方を巡って
第九章 厚生経済学と社会的選択の理論⑶――展望と評価
1 IEA円卓会議I――社会的選択理論の再検討
2 社会的選択と厚生――ハンドブックの構想と編集
3 IEA円卓会議Ⅱ――世代間衡平性と持続可能性
4 私の社会的選択の理論の集大成
第十章 忘れえぬ恩師たち
1 荒憲治郎教授(1925~2002)
2 ハーン教授(1925~2013)と森嶋教授(1923~2004)
3 ケネス・アロー教授(1921~)
4 アマルティア・セン教授(1933~)
おわりに
鈴村興太郎略年譜
代表的な研究業績
人名索引