ソーシャル・キャピタルと市民社会・政治 幸福・信頼を高めるガバナンスの構築は可能か
福祉国家の変容等の社会課題解決のためには市民社会との協働が不可欠であり、それゆえガバナンスの構築とソーシャル・キャピタルの醸成が、現代政治の喫緊の課題といえる。この点を踏まえ、市民社会・政治とソーシャル・キャピタルの関係について、多様な背景を持つ研究者らが、実態をリアルに示した調査データを活用して検証。現代社会の変容要因を示した上で、市民の協力を引き出すための方策の提示を試みた一冊。
[ここがポイント]
◎ 多用な背景を持つ著者が、実態調査に基づき比較論証した論文を掲載。
◎ 市民社会の変容と社会問題を乗り越える鍵がソーシャル・キャピタルであると捉え、論を展開。
◎ 市民の「参加」を促進するための方策を検討。
まえがき
序 章 市民社会・ガバナンス・ソーシャル・キャピタルの相互関係(辻中 豊)
1 マクロな外部性と集合的な効用
2 なぜ「小さくタフな政府」は可能か──日本のパフォーマンスの謎をとく
3 正の外部性の発揮要因の探究と多様なデータ収集
4 政治文化アプローチとの関連
5 マクロな業績を担保する概念──市民社会・ガバナンス・ソーシャル・キャピタルの共通点
6 世界と日本の市民社会の変容
7 市民社会・ガバナンスを規定するソーシャル・キャピタル
第1章 公共政策への市民の納得──市民社会組織リーダーの政策満足から見る日本の都市ガバナンス(辻*中 豊・阿部弘臣)
1 公共政策と市民社会
2 市民社会組織からみる社会ガバナンス
3 ガバナンス時代における政府の意義
4 政策満足度に関するいくつかの説明要因とJIGSデータセット
5 参加・ネットワーク・信頼と政策満足の想定される関係
6 参加・ネットワーク・信頼の規定力
7 社会団体と住民自治組織の差異と類似を考える
8 公共政策への市民の納得のために
第2章 コミュニティ特性の構造要因を探る──東京の都心・下町・山の手の比較から(戸川和成)
1 コミュニティ特性の類型化──都市型・地域村落型の比較から
2 都市化度とコミュニティ要因特性──ソーシャル・キャピタルの説明要因
3 都心・下町・山の手のコミュニティ特性
4 東京のソーシャル・キャピタル較差説の検証
5 どのような環境がソーシャル・キャピタルを育むのか
第3章 「政治」は「弱さ」と向き合うことができるのか──ソーシャル・キャピタル論の批判的考察(杉本竜也)
1 「強く,有能な市民」という呪縛
2 パットナムが求めていることは何か
3 市民社会論の思想的源流としてのトクヴィル
4 市民社会論の課題と「ケア」の可能性
5 「依存」と「ケア」は「強く,有能な市民」の呪縛を解くことができるか
第4章 不平等の罠と「中流」の消滅──ソーシャル・キャピタルのダークサイドと市民社会(稲葉陽二)
1 ソーシャル・キャピタルのダークサイド論
2 ダークサイドはなぜ生じるのか──「2013年社会関係資本全国調査」からの実証
3 不平等の罠と「中流」の消滅──究極のダークサイド
第5章 社会開発の持続可能性を高めるものは何か──ネパールの女性グループの活動事例から(青木千賀子)
1 ソーシャル・キャピタルの醸成がもたらす効果
2 相互扶助システムとコミュニティ活動
3 SOCATによる分類・類型化と概念整理
4 ネパールの女性グループによるマイクロファイナンス活動に対する記述的事例分析──フィールドワークから
5 マイクロファイナンス活動の実績は何か──貧困削減・差別構造解消への貢献
6 協調行動の働きかけと持続可能な開発
第6章 地域課題とNPO・市民活動(立福家徳)
1 ソーシャル・キャピタルとNPO・市民活動
2 日本における市民活動──NPO法をふまえて
3 市民活動参加者の特徴──「暮らしの安心・信頼・社会参加に関するアンケート調査」から
4 新たなNPO・市民活動に向けて
第7章 地域コミュニティとソーシャル・キャピタル(石田 祐・金谷信子)
1 地域コミュニティへの関心と実態
2 日本における地域コミュニティの発展と3つの危機
3 日本の地域コミュニティにおけるソーシャル・キャピタルの影響
4 地域コミュニティにおけるソーシャル・キャピタルの存在
5 危機を乗り越えて──ソーシャル・キャピタルを考慮した政策展開の可能性
第8章 防災・災害復興で求められる地域コミュニティの機能(川脇康生)
1 地域コミュニティの内抱する力への着目
2 防災・災害復興における地域の対応力──コミュニティ・レジリエンス
3 事例・実証研究にみるレジリエンスの実例と政策への応用
4 東日本大震災からの生活復興──近所付き合いの変化・共助の実態に着目して
第9章 「信頼」を捉えることは可能か(西出優子・玉川 努)
1 高信頼社会と低信頼社会の違い
2 信頼とは何か
3 信頼の測定を通じてわかること
4 今後の信頼研究に求められるもの
第10章 幸福度──経済要因だけでは規定されないもの(松島みどり・伊角 彩)
1 幸福度研究への関心の高まり
2 幸福のパラドックス
3 幸福度の先行研究概観
4 定量的把握による日本人の幸福度とソーシャル・キャピタル
5 幸福度研究からの示唆──ソーシャル・キャピタルの果たす役割
終 章 実証に基づく政策研究の視座(山内直人)
1 市民社会・政治をめぐる研究課題──本書の内容から
2 ソーシャル・キャピタル研究のフロンティア──新しいデータと高度な手法
3 ソーシャル・キャピタル形成に有効な政策を考える
索 引