さまざまな要素が絡み合う現代交通をとらえるために。 ドイツ発、異なる学問領域が交差する入門テキスト
交通問題の特徴は、多くの社会的課題が重複し、互いに大きな影響を受けることにある。本書は、先進的研究と実践を進めているドイツの「交通政策」の入門書。様々な分野の専門家が「交通」を主軸に最新の研究を論述、その複雑な構造を明らかにし、これまで個別的アプローチであった諸課題を総合的に把握する。日本の今後の交通政策を探る上で、必読の書といえる。(原書 Oliver Schwedes(Hrsg.),Verkehrspolitik,Springer, 2011)
[ここがポイント]
◎ ドイツにおける「交通政策」の基本テキスト
◎ 日本にも当てはまる事例で交通政策の要点を解説
◎ 初学者に向けて分かりやすい翻訳
◎ ドイツにおける交通政策論のさまざまな学術アプローチを網羅
まえがき
序 章 交通の政策科学について(オリヴァー・シュヴェーデス)
1 科学としての交通について
2 交通の政策学
3 持続的な交通発展の概念
4 統合的な交通政策の理想像
5 結 語
第Ⅰ部 交通の諸側面
第1章 交通と社会――モビリティデザインとしての交通政策(シュテファン・ラムラー)
1 近代社会のモビリティ
2 われわれの知るモビリティの終焉
3 世界をデザインする意味でのモビリティ政策
4 持続可能なモビリティ政策の先導的戦略
5 持続可能なモビリティ政策をリードする部門
6 結 語
第2章 人間と交通――行動科学的基礎にたった経験に基づく交通政策への提言(セバスチアン・バンベルク)
1 交通政策の支配的行動理論としての合理的選択
2 行動科学的な働きかけの研究と社会 - 環境的な端緒
3 社会 - 環境的な働きかけ――交通安全研究の例
4 多様な状況下における多様な働きかけ――若者の事故の危険性を低下させるための社会 - 環境的な手がかり
5 効果のあった働きかけについて――実証的なエビデンスの役割
6 社会 - 環境的な働きかけのプログラムの担当者は誰がなるべきか
7 ノルトライン - ヴェストファレン州(NRW)の交通安全ネットワーク――ドイツにおけるコミュニティを基盤とした働きかけの事例
8 結 語
第3章 交通と環境――交通政策の上位目標と環境視点の役割について(ウド・J・ベッカー)
1 何が交通政策の目標になりうるのか
2 われわれは多くの交通を欲しているのか、多くのモビリティを欲しているのか
3 モビリティの自由と自動車交通の自由は基本的権利の帰結なのか
4 環境的観点の交通政策的な重要性
5 結 語
第4章 交通と経済――交通の国民経済的意義(ハイケ・リンク)
1 主要交通経済指標の概観
2 交通インフラと経済成長の関係
3 交通の負の波及効果と外部費用
4 結 語
第5章 交通と交通学からみた交通政策上の挑戦(クリスティアン・ホルツ=ラウ)
1 交通計画の統合化
2 取り扱いと政策分野
3 統合的交通計画の原理
4 立地と交通の計画における統合
5 地域発展の主な傾向
6 統合的計画とその限界
7 インフラの形成――バリアフリーについても統合的計画を
8 地域的課題としてのバリアフリー
9 部門間の課題としてのバリアフリー
10 複数の交通機関を包括する課題としてのバリアフリー
11 社会参加としてのバリアフリー
12 交通サービスの財源
13 多くの問題は自ら解決するのではないか
14 結 語
第Ⅱ部 交通政策の中心的論点
第6章 歴史的視点からみた交通政策(ミヒャエル・ハッシャー)
1 歴史の中の交通政策の対象領域と主体
2 ドイツの交通政策の歴史的段階
3 長期的展望――交通政策史のテーマ
4 結 語
第7章 政策学からみた交通政策の意思決定(ニルス・C・バンデロウ/シュテファン・クンドルフ)
1 交通政策の諸特性
2 分析上の観点
3 主観的に認識された行動への圧力の発生
4 可能性ある解決策としての政策的プログラム開発
5 権力関係の進展
6 結 語
第8章 モビリティと貧困――交通における社会問題(シュテファン・ダウビッツ)
1 交通における社会問題
2 持続可能なモビリティにより社会参加を可能に
3 結 語
第9章 モビリティの社会化――社会形態と利用交通手段の関係(クラウス・J・トゥリーディルク・バイアー)
1 社会化と青年期
2 21世紀初頭のモビリティの社会化
3 結 語
第10章 渋滞現象(レギーネ・ゲーリケ)
1 本章における渋滞の分析対象
2 渋滞費用
3 短期と長期の視点――(最適)インフラ容量と渋滞
4 混雑料金の実証的、実務的な経験
5 結 語
第11章 交通安全(ティナ・ゲーレルト)
1 交通安全分野での活動団体
2 交通行動に影響を与える交通安全対策
3 結 語
第12章 公共交通における顧客の権利と顧客サービス(マーティン・シーフェルブッシュ)
1 背景――力の不平等
2 乗客の権利と顧客サービス――何が問題なのか
3 「顧客の権利をめぐる議論」の発展
4 乗客の権利の実現と裁判外紛争解決手段の可能性
5 サービス保証を通じた乗客の権利の拡張
6 結 語
第13章 都市交通(ティルマン・ブラッハー)
1 交通行動と交通手段の選択
2 将来の展望
3 機関別から統合的な交通計画へ
4 道路と道路交通の形成
5 旅客交通における対応分野
6 業務交通と貨物輸送における政策分野
7 公的部門による財源調達
8 結 語
第14章 余暇における交通行動と余暇交通(トーマス・W・ツェングラー)
1 余暇交通――交通統計上の「その他」か、あるいは交通政策上の挑戦か
2 概念とその定義
3 余暇における移動をどのように把握するか?――1つのモデル
4 現実をどのように数字で把握するか?――方法論
5 余暇における交通行動と余暇交通の構造と背景――成果
6 結 語
第15章 公共交通(カトリン・ジーカン)
1 公共旅客近距離交通はいかに機能するのか
2 公共交通の今後の挑戦
3 結 語
第16章 自動車と自動車信仰(ゲルト・シュミット)
1 自動車と自動車信仰についての社会科学的「位置付け」について
2 ドイツにおけるモータリゼーションの歴史の概観
3 第2次世界大戦以降の現代的自動車社会の発展
4 くるまを巡る闘争――自動車信仰と合理主義
5 21世紀初頭のドイツにおける自動車信仰の状況についての観察
6 結 語
第17章 徒歩と自転車交通――柔軟で、モダンで、化石燃料後の交通手段(ユッタ・デフナー)
1 徒歩と自転車交通についての議論
2 徒歩と自転車交通の交通計画上のパラダイムの転換
3 徒歩を忌避する、あるいは自転車を好むのはなぜかについての理解
4 大きな構想を――単純な自転車促進策から新たなモビリティ構造のための戦略へ
第Ⅲ部 交通政策の展望
第18章 交通政策と未来研究――「将来のためのモビリティ」を考えるために(インゴ・コロッシェ)
1 未来研究とは
2 未来研究は交通政策と交通計画について何ができるか――電気自動車の例
3 結 語
第19章 将来のためのモビリティ(ルドルフ・ペーターゼン)
1 持続可能なモビリティのための枠組み――エネルギーと気候の目標
2 交通政策と持続可能なモビリティ
3 発展経路
4 シナリオ1――現状維持
5 シナリオ2――グリーン・テクノロジーが問題を解決する
6 シナリオ3――持続可能なモビリティ
7 結 語
引用・参考文献
訳者解説
訳者あとがき
索 引