ジェンダー
歴史に影響を与えた「ジェンダー観」とは啓蒙期の科学は解剖学的な差異と精神性を関連させ、男女は身体的のみならず能力や性格においても本質的に異なるというジェンダー観を成立させた。このジェンダー観は、近代社会の形成にあたって規定的な力として作用し、人びとの居場所や役割、行動規範を定めるとともに、政治・経済・社会のさまざまな制度のなかに組み込まれていく。本書では、知の専門化、参政権運動、協会活動、母性福祉、社会保険、戦争という歴史事例をとりあげ、ジェンダーの構築と変容の過程、構造をつくりだす力としてのジェンダーの作用、そしてヨーロッパの女たち、男たちが近代のジェンダー化された社会をどう生きたのかを描きだす。ヨーロッパ諸国における女性史とジェンダー史をめぐる動向も合わせて考察。
第1章 救済の手と簒奪の手が…… ――モケ・ド・ラ・モットの助産とジェンダー
1 モケ・ド・ラ・モットの生涯とその助産
2 生い立ちとその時代
3 コタンタンでの活動環境
4 モケ・ド・ラ・モットの助産
5 時代のアポリアの狭間で 女性参政権運動
第2章 「マンズ・シェア」――イギリス女性参政権運動への男性のかかわり
1 イギリス女性参政権運動とジェンダー
2 女性参政権運動に対する男性からの反対論
3 女性参政権運動への「マンズ・シェア」
4 ペシック=ローレンス夫妻のパートナーシップ
5 ペッシク=ローレンス夫妻と女性参政権
6 ペシック=ローレンス夫妻のその後 歌うドイツの男たち
第3章 一九世紀ドイツにおける男声合唱運動――ドイツ合唱同盟成立(一八六二年)の過程を中心に
1 男声合唱の隆盛
2 男声合唱運動の起点と展開
3 一八六〇年代=ドイツ帝国成立期における協会運動 4 ドイツ合唱同盟の成立 5 ドイツ近代におけるジェンダー ジェンダーの構造化と裁判
第4章 健康な母親と強壮な子孫――アメリカ社会福祉制度形成における裁判所判決とジェンダー
1 ジェンダー研究と国家構造
2 社会福祉施策の形成とジェンダー
3 「裁判所国家」とジェンダー 社会保険とジェンダー
第5章 近代化過程における労働者のジェンダー化――ドイツにおける社会保険制度の成立とジェンダー
1 社会保険制度とジェンダーの歴史学
2 ビスマルクによる社会保険制度導入以前の扶助制度とジェンダー
3 労災保険
4 健康保険
5 選挙権
6 障害・老齢年金保険
7 保険制度と労働者のジェンダー化 女性にとって戦争とは
第6章 戦争とジェンダー――スペイン内戦の場合
1 スペイン内戦と女性
2 内戦にいたるまでのジェンダーをめぐる状況
3 戦時下の女性の動員
4 両陣営の女性組織の活動
5 作り上げられたジェンダー・イメージ――表象にみるジェンダー
6 揺れ動くジェンダーの言説――作り上げられたジェンダー・イメージと現実とのギャップ
7 スペイン内戦とジェンダー イタリアの性差の歴史
第7章 性差から歴史を語る――イタリアにおける女性史と〈ジェンダー〉
1 〈ジェンダー〉の普及とその受容
2 セクシュアリティ研究と女性史
3 労働の場における女性と男性をめぐって
4 政治の場における女性をめぐって
5 〈ジェンダー〉とイタリアにおける性差のとらえ方研究動向
コラム