新時代のグローバル・ガバナンス論 制度・過程・行為主体
主権国家を至上主体とするウェストファリア体制の揺らぎが指摘されて久しい。関与主体の多様化はもちろん、争点領域の多様化・複合化とガバナンスの多層化が進展し、今日では開発、人権、保健、環境、資源などの分野で権威所在が多元化した多中心的なグローバル・ガバナンス・システムが出現している。本書は、多主体性、多争点性、多層性、多中心性を特徴とする現代グローバル・ガバナンスを、国際関係論の理論と実例から概説する。
[ここがポイント]
◎ 国連機関等の国際機構、欧州連合等の地域機構、専門家や官僚、NGOや活動家、企業や業界団体は、いかなる活動をしているのか。
◎ 経済・社会・開発、環境・資源、安全保障、情報などの地球的問題について、領域の多様性・複合性と、主体の多様性・多中心性・多層性を解明する。
序 章 現代グローバル・ガバナンスの特徴──多主体性,多争点性,多層性,多中心性(西谷真規子)
1 グローバル・ガバナンス論の系譜
2 ウェストファリア体制の変容と現代グローバル・ガバナンスの課題
3 本書の構成
第Ⅰ部 行為主体
第1章 国際機構──グローバル・ガバナンスの担い手?(山田哲也)
1 国際社会と国際機構
2 国際機構の特徴
3 国際機構の正統性問題
4 国際機構を通じた規範形成
5 国際機構を問う意義
第2章 地域機構──グローバル・ガバナンスとの関係性をめぐる3つのイメージ(渡邉智明)
1 地域機構とグローバル・ガバナンス
2 加盟国の利益集合体としての地域機構
3 グローバル・ガバナンスの担い手としての地域機構
4 規範に関わるエージェントとしての地域機構
5 グローバル・ガバナンスの「深化」と地域機構の可能性
第3章 専門家──知識と政治の相克(山田高敬)
1 国際政治と知識
2 グローバル・ガバナンスの基盤としての知識
3 知識共同体の役割
4 気候変動問題における知識共同体の役割
5 知識共同体論の今後の展開に向けて
第4章 NGO・社会運動──「下から」のグローバル・ガバナンスを目指して(上村雄彦)
1 NGOの定義,起源,種類とその台頭
2 分析枠組
3 パートナーシップ型アプローチ──気候変動の事例
4 パートナーシップ型アプローチ──対人地雷の例
5 社会運動型アプローチ
6 NGOがグローバル・ガバナンスに与える影響と今後
第5章 企 業──グローバル化の中の企業行動の光と影(梅田 徹)
1 企業とは何か
2 多国籍企業の論点
3 多国籍企業の行動規制の動き
4 多国籍企業とガバナンス・ギャップ
第Ⅱ部 制度と過程
第6章 国際レジーム論の系譜──統合から分散へ(山田高敬)
1 国際政治学と国際レジーム論
2 国際レジームと国際秩序
3 多国間主義の危機とプライベート・レジームの台頭
4 グローバル・イシューの多面性とレジーム・コンプレックスの台頭
5 国際レジームの今後の展開
第7章 国際関係の法化,ソフト・ロー,プライベート・スタンダード──ガバナンス手段の多様化(内記香子)
1 国際関係の法化
2 国際関係とソフト・ロー研究
3 国際関係におけるプライベート・スタンダードの拡散
4 ガバナンス手段の多様化の時代
第8章 ガバナンス・モード──グローバル・ガバナンスの変容(西谷真規子)
1 国家性,包摂性,委譲性による分類
2 直接性/間接性とハード/ソフトな手法による分類
3 間接的ガバナンスにおける能力と統制の緊張関係
4 多中心的ガバナンス
5 「機構」から「機能」へ,フォーマルからインフォーマルへ
第9章 ネットワーク──ネットワーク化したガバナンスの特徴と課題(西谷真規子)
1 ネットワークの定義と類型
2 ネットワークの対外関係とネットワーク内政治過程
3 グローバル・ガバナンスにおけるネットワークの課題
第10章 ガバナンスの正統性──正統化の政治と動態(西谷真規子)
1 グローバル・ガバナンスの正統性問題
2 正統性の動態
3 グローバル・ガバナーの正統性
第Ⅲ部 グローバル・ガバナンスの現状
第11章 国際開発──新興国の台頭とガバナンス構造の変動(小川裕子)
1 「ポスト貧困削減ガバナンス」の胎動
2 ガバナンス境界の消滅──DAC
3 新ガバナンスの誕生?──AIIB
4 ガバナンスの複合化──SDGs
5 国際開発ガバナンスの構造変動
第12章 人権(労働者,女性,子ども)──人権規範の浸透と多中心化・多争点化するガバナンス(赤星 聖)
1 グローバル・ガバナンスと人権
2 人権ガバナンスの近年の展開──労働者,女性,子ども
3 人身取引をめぐるガバナンス──労働者・女性・子どもを横断するイシュー
4 実効性のある人権ガバナンスのために
第13章 移民・難民──複雑化する移動とガバナンスの変化(中山裕美)
1 人の移動を扱うガバナンスの起源
2 複合的な難民ガバナンスへの発展
3 重層化する移民ガバナンス
4 曖昧化する「難民」と「移民」の境界と岐路を迎えたガバナンスの行方
第14章 腐敗防止──多中心化と大衆化(西谷真規子)
1 腐敗防止グローバル・ガバナンスの特徴
2 多層的レジーム複合体
3 ネットワーク化したガバナンスによる調和化と複合化
4 大衆化と周縁化
5 腐敗防止ガバナンスの課題
第15章 保健医療──保健ガバナンスの構造と課題(詫摩佳代)
1 保健ガバナンスとは何か
2 保健ガバナンスの牽引役としてのWHO
3 多様な保健課題とアクターの協調・競合
4 国際保健からグローバル・ヘルスへ
5 保健ガバナンスの課題
第16章 知的財産権の保護──模倣防止と利用促進の狭間で揺れる国際社会(西村もも子)
1 プロ・パテント,アンチ・パテント,そしてその後
2 アンチ・パテントの台頭とその影響
3 知的財産権をめぐるガバナンスの現状
第17章 企業の社会的責任──ステークホルダーの拡大と協働が進めるサステナビリティ対応(藤井敏彦)
1 企業の社会的責任(CSR)論をめぐる構造変化
2 環 境
3 人権サプライチェーンとマルチステークホルダー苦情処理
4 金融の役割の増大
5 グローバル・ガバナンスの変化とCSR
第18章 グローバル・タックス──地球規模課題解決のための革新的構想(上村雄彦)
1 グローバル・タックスとは何か
2 第1の柱──世界の税務当局による課税に関する情報の共有
3 第2の柱──国境を越えた革新的な課税の実施
4 業界と所管省庁の抵抗
5 グローバル・タックス実現に向けての最大の課題
第19章 貿 易──問題の多様化と利害の交錯(鈴木一敏)
1 貿易分野におけるガバナンスの変化
2 問題領域の拡大と複合性
3 貿易ガバナンスの現在と今後
第20章 気候変動──経済・安全保障を巻き込むグローバルな課題(石垣友明)
1 国連気候変動枠組条約と京都議定書の概要
2 パリ協定の概要
3 気候変動問題と他の規範との関係
4 ルール形成に関与する幅広いアクターとその特徴
第21章 天然資源(森林,水産資源)──複合的ガバナンスの取り組み(阪口 功)
1 森林と水産資源の現状
2 財の性質から見た森林と水産資源の管理
3 森林と水産資源のレジーム・コンプレックスの形成
4 プライベート・レジームによる資源管理の推進
5 途上国時代の複合的ガバナンスの課題
第22章 海 洋──変貌する公海自由原則と領域的アプローチ(都留康子)
1 生命の源としての海
2 国連海洋法条約と領域的アプローチ
3 海洋環境の保護と海洋法
4 新たな実施協定BBNJ交渉の動向と課題
5 海洋ガバナンスの今後の課題
第23章 軍縮・不拡散および戦略物資規制──理念とパワーバランスが交錯するルール(石垣友明)
1 国連の下での軍縮・不拡散の基本的な枠組み
2 核軍縮・WMDの不拡散に関する主な枠組み
3 通常兵器の規制をめぐる国際的な議論
4 様々なアクターの関与した複層的なルール形成の特徴
第24章 サイバースペース──深刻化するセキュリティと決定力を欠くガバナンス(土屋大洋)
1 拡大するサイバースペース
2 1990年代以前の牧歌的な時代
3 2000年代の政治的な論争の時代
4 2010年代以降の安全保障上の懸念が高まる時代
5 決定力を欠くガバナンス
人名索引
事項索引