福祉社会学のフロンティア 福祉国家・社会政策・ケアをめぐる想像力
福祉社会学はいかなる知を生み出す可能性をもっているのか。
2010年代以降の福祉社会学は、(1)日本社会や東アジアの社会的文脈の意識化、(2)中期的な予測や提案の道筋を示そうとすること、(3)周縁的と考えられてきた政策領域との接合、(4)当事者や支援者の多様性や変化への注目、などの点で深化を遂げてきた。本書はそうした展開をふまえたうえで、「福祉国家」「社会政策」「ケア」をめぐる福祉社会学、その新たな領野を切り拓く15の《戦略拠点》を提供する。
[ここがポイント]
◎ 中堅研究者による、福祉社会学の新たな領野を切り拓く試み。
◎ 本書は福祉国家、社会政策、ケアの三部構成、15章から成る。
第Ⅰ部 福祉国家
第1章 労働と福祉を結びなおす──再分配と市場交換の交差(米澤 旦)
1 福祉と労働の交差──福祉社会学のフロンティアとして
2 再分配・互酬と福祉社会学
3 福祉社会学の焦点としての「生活」
4 福祉社会学における労働の位置
5 労働と福祉を結びなおす
第2章 福祉供給手段の多様化と資源配分原理──福祉ミックス論の限界を超えて(張 継元)
1 福祉供給に関する理論的発展
2 従来の福祉ミックス論の限界
3 福祉供給手段の多様化
4 福祉供給手段の資源配分原理と制御メディア
5 福祉ミックス論の限界を超えて
第3章 天賦人権としての生活権を求めて──森本厚吉が描いた理想の天地(冨江直子)
1 「生存ではなく生活を」
2 本章の視点と問い
3 森本の「生活権」論
4 「天賦人権」としての「生活権」
5 福祉社会学への遺産
第4章 グローバル社会政策の起源──ILO百年に寄せて(上村泰裕)
1 百年前の現場へ
2 歪んだ集合的記憶
3 ILOが解き放った政治──労働代表問題
4 原則と特例──8時間労働制をめぐって
5 真の議題──女性と児童の保護
6 社会政策を導く理念
7 百年後への示唆
第5章 後発福祉国家論の再検討──これまでのアジア研究と今後の課題(金 成垣)
1 アジアへの関心の高まり
2 アジア研究の展開
3 後発福祉国家論の限界と今後の課題
第Ⅱ部 社会政策
第6章 未婚化の終わり──少子高齢パラダイムのゆくえ(神山英紀)
1 「少子高齢パラダイム」と未婚化の減速
2 結婚は将来を調整し共同利益を得る約束
3 男女両性人口の同時統制
4 単調・連続的に変化する未婚化──その直接要因としての「男女賃金格差の縮小」
5 未婚化が終わる理由
6 少子高齢パラダイムのゆくえ
第7章 家族政策の出生力への影響を考える(岩澤美帆)
1 出生力はなぜ社会学の対象なのか
2 出生力はなぜ政策にかかわるのか
3 社会民主主義的家族政策の目的
4 家族政策の効果測定はなぜ難しいのか
5 家族政策の影響について何がわかったのか
6 「信頼」され「自主性」を高める政策による副次的効果としての出生力回復
第8章 〈教育〉の論理・〈無為〉の論理──教育化する社会保障とその外部(仁平典宏)
1 教育と社会保障の交点で
2 〈教育〉の論理と社会保障制度
3 日本型生活保障システムの成立と揺らぎ
4 今後の生政治と〈無為〉の位置
5 規制と〈教育〉
6 給付と〈教育〉
第9章 社会政策としての住宅政策・再考(祐成保志)
1 社会政策の限界領域
2 対人社会サービスとしてのハウジング・マネジメント
3 ハウジング・マネジメントの弱みと強み
4 ハウジング・マネジメントのゆくえ
5 福祉社会における居住保障
第10章 文化芸術活動の社会化──社会に踏み込んだ文化政策(友岡邦之)
1 文化政策の「社会的・経済的価値」
2 「文化芸術活動の社会化」の推進要因
3 資源の徹底活用としての文化政策
4 文化政策による社会関与の進展
5 あらためて,文化芸術の特異性とは
第Ⅲ部 ケ ア
第11章 認知症新時代の福祉社会学的課題──ケアと承認をめぐって(井口高志)
1 ポスト介護保険制度期の課題
2 新しい認知症ケアの時代と認知症の社会学
3 ポスト介護保険制度期の諸実践
4 認知症実践をめぐる福祉社会学的課題
第12章 ケアが社会的に評価されることにどう向き合うか(森川美絵)
1 ケアの社会的評価という問題
2 ケアワークの低評価と概念化に関する先行研究
3 社会的評価の枠組みの検証──介護保険の事例
4 オルタナティブなケア評価に向けて
5 「ケアの全社会的な編成」を視野に
6 政策志向の福祉社会学として
第13章 地域福祉の主流化とケア提供者(三井さよ)
1 地域福祉の主流化という時代に
2 従来型の社会福祉像──専門職とニーズ
3 地域生活のただなかで──ニーズの複数性
4 従来型専門職の限界と新たな専門職像
5 ベースの支援
6 ニーズを超えて──排除/包摂という視点の必要性
7 新たな社会の構想と社会福祉
第14章 制度の谷間からの声を聴く──認められない病の患者たち(細田満和子)
1 社会に認められない「必要」
2 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)という見えない病
3 制度の谷間
4 見えない病──診断されない/できない病気
5 構造的孤立
6 正当な「必要」の主張──患者アドボカシー
7 社会を変え,「この手に希望を」
第15章 地域福祉からみた成年後見──市民社会が支える看とり(税所真也)
1 地域福祉における車の両輪──介護保険制度と成年後見制度
2 地域福祉からみた任意後見制度への期待
3 NPO法人による任意後見制度の取り組み──NPO法人ライフデザインセンターについて
4 NPO法人ライフデザインセンターの支援事例
5 介護の社会化から看とりの社会化へ
6 福祉社会における成年後見の真の社会化に向けて
あとがき
索 引