南部アジア
新たな課題に挑戦し続ける各国の現況と世界との関わりを立体的に描く
ダイナミックに変貌しつつあるアジア政治は、さまざまな問題を抱えながら、新しい課題に挑戦している。本書は、世界の注目を集めている南・東南アジア諸国を「南部アジア」として一括して取り上げ、その成り立ち・特徴・現況・将来展望について、各国が抱える主要課題ごとにまとめて詳解するとともに、地域協力・地域秩序の現状と将来を論じる。ユニークな編集方針の下、グローバル化する世界の中にアジア政治の「今」を6部構成で立体的に描き出す。
序 章 南部アジア政治試論(山影 進)
1 南部アジアの見取り図
2 21世紀までの南部アジア
3 南部アジアのダイナミズム
4 南部アジアの政治課題——本巻の構成に引きつけて
第Ⅰ部 分離の苦痛と自決の渇望
第1章 アチェ・パプア(首藤もと子)
——民主化後の特別自治と分離主義の狭間
1 民主化後の政治制度
2 民主化後の中央と地方の関係
3 アチェとパプアの紛争要因の比較
4 特別自治の展望と問題
5 今後の課題
第2章 カシミール問題とインド・パキスタン関係(伊豆山真理)
——領域支配・レファレンダム・自治
1 分離,自治とカシミール
2 インド・パキスタンの紛争とカシミールの自決
3 自決対テロ
4 インド側カシミールにおける自治の問題
5 硬い国家と域内の柔軟性
第Ⅱ部 エスニック政治を越えて
第3章 スリランカ(田中雅一)——民族紛争と多元的視点の探求
1 民族紛争への視点
2 シンハラ・ナショナリズムの展開
3 内的対立と国際情勢
4 周縁的集団へ
第4章 マレーシア・シンガポール(金子芳樹)——グローバル化に揺れる多民族国家
1 2つの多民族国家
2 多民族共存の原則——2つの異なる方程式
3 開発とエスニック統合のジレンマ
4 グローバル化の衝撃と反応
5 民主化とエスニシティ
第Ⅲ部 国民のアイデンティティとイスラーム
第5章 インドネシア(本名 純)——民主化時代のイスラーム政治
1 インドネシアの政治とイスラーム勢力
2 伝統社会とキアイの政治
3 政治腐敗と福祉正義党
4 国際テロと国内ジハード
5 世論とイリュージョン
第6章 フィリピン(川島 緑)——マイノリティ・ムスリムの政治統合問題
1 フィリピン国家とイスラーム
2 ウンマとネーションの相克と調整
3 モロ/フィリピーノの二分法を越えて
4 その後の展開
第7章 パキスタン(広瀬崇子)
——国民のアイデンティティとイスラームの挑戦
1 「ムスリム国家」パキスタンの誕生
2 バングラデシュの独立とパキスタン・アイデンティティ
3 アフガニスタン紛争とパキスタン
第Ⅳ部 社会の「開放」と「民主化」の行方
第8章 ネパール・ブータン(井上恭子)——孤立から開放へ/苦難の民主化
1 ネパールの民主化——出口の見えない混迷
2 多民族国家ブータン——国王主導の「民主化」
第9章 ビルマ(ミャンマー)・カンボジア(武田康裕)
——分断社会における国民統合と民主主義
1 ビルマの民主化と国民統合
2 カンボジアの低強度民主主義と民族和解
3 国民統合と民主化の行方
第Ⅴ部 飛躍の契機と山積する課題
第10章 タ イ(玉田芳史)——民主化と作用反作用
1 閣僚と民選議員から見る民主化
2 政治改革とタックシン政権
3 クーデタと大衆の蜂起
第11章 インド(広瀬崇子)
——グローバル化への対応と民主主義の強化
1 インド民主主義の展開
2 インド政治のダイナミズム
3 外に向かうインド
第12章 ベトナム(五島文雄)——グローバル化のなかのドイモイ
1 ベトナムの共産主義体制——政治を規定する2つの組織原理
2 ドイモイ以降のベトナム社会の変容
3 ベトナム共産主義体制の課題
第Ⅵ部 南部アジアの地域制度構築
第13章 アジア地域主義における南部アジア(大庭三枝)
——東南アジアからの視点
1 東南アジアを中心とした地域主義——過去と現在
2 ASEANの展開とアジア地域主義
3 新たな連携の動きと南部アジア地域概念の浮上
4 南部アジアの諸地域主義の問題点
第14章 地域協力の鍵を握るインド(伊藤 融)
——SAARC,環インド洋,BIMSTEC
1 地域におけるインドの中心性
2 南アジアにおける地域協力の展開と限界
3 「南部アジア」への地域協力の拡大
4 未成熟な組織化
第15章 アメリカによる地域秩序の模索(星野俊也)——超大国の光と影
1 アメリカと南部アジア
2 9.11事件の衝撃
3 「壮大なチェス盤」での外交ゲーム
4 地域秩序への光と影——アメリカ外交の課題
資料編
人名索引
事項索引